財務省の主張に対し、JRの経営努力を無視した暴論であり、これでは整備新幹線を引き受ける意味がなくなるという指摘も見られるが、、JR東日本の常務取締役が2014年10月の決算説明会で「貸付料は(略)得も損もしない仕組みとなっています」と述べているように、事業者としては、それが建前であったとしても、認めざるを得ない原則ではある。

 制度上、貸付料の改定は不可能ではない。鉄道・運輸機構とJRの協定書には「定額の貸付料について、貸付料決定の際には想定し得なかった経済・社会状況の著しい変化により大幅な受益の変動が生じた場合は、定額の貸付料の変更について協議するものとする」との規定がある。

 貸付料が事実上、増額された事例もある。「営業主体が新たな区間の営業を開始することにより、当該区間に接続する区間を営業する他の営業主体に生じる受益」を「根元利益」と定義しており、北海道新幹線新青森~新函館北斗間開業においてJR東日本は追加で年22億円を支払っている。

 実際の根元受益はさらに大きいとの試算もあったが、JR東日本は追加負担に難色を示し、22億円で決着。さらに大きな根元受益が発生する北陸新幹線では反映されなかった。受益に基づいて貸付料を算定するのであれば、需要予測の精度を高めるとともに、こうした状況の変化を適切に反映する必要があるだろう。

財務省の提案を実行すれば
JRの創意工夫を失わせるおそれ

 ただ、財務省がこのような要求をするのは今回が初めてではない。財務制度等審議会財政制度分科会は2019年にも「受益の実態に即した貸付料の算定ルールそのものの見直し、貸付料の支払期間(現在30年)のB/Cの計算期間と同様の50年までの延長、施設の売却により財源を確保することを検討すべき」と指摘。

 財務省主計官は「鉄道事業だけではなくて、駅ビル等の不動産でも相当稼いでおられるわけでありまして、現行の貸付料の設定も実は鉄道事業の収益だけで考えております。貸付料の算定方法そのものを柔軟に見直す余地はあると思います」と説明している。今回の議論も、基本的にはこれをなぞったものだ。

 とはいえ、財務省の主張には首肯しかねる部分も多い。「国民・住民の負担を抑制するためにも、適切な貸付料を徴収する必要がある」という原則は正しくても、今後は「需要の実績が貸付料算定の前提となった予測を上回る場合には、その上回る部分も貸付料として追加的に徴収できるような貸付料算定方式の見直しを行うことが必要」というのは極端だ。