JRが整備新幹線を自前で建設していれば、という考えもあるかもしれないが、前述のように整備新幹線は儲からない事業という前提であり、こうした事態はスキーム策定時には想定されていなかった。利益と資本費負担リスクを比較した上でのJRの決定なので仕方ない。

 改めて財務省の指摘を見てみよう。第一は貸付料の「30年」という期間だ。北陸新幹線高崎~長野間は2027年度に、東北新幹線盛岡~新青森間、九州新幹線博多~鹿児島中央間は2040年度までに、それぞれ開業30年を迎えるが、現時点では31年目以降の扱いは未定だ。

 そもそも貸付料が「30年」とされたのは、開業から30年程度で大規模改修などが必要になる前提で、31年目以降はその費用負担をふまえて改定するという建て付けだった。そのため30年経過すれば貸付料がタダになるという考えは、国交省にもJRにも元よりないといってよい。

 国交省鉄道局長は2015年、参議院国土交通委員会で「30年経過後においても、受益が発生する限りはその範囲内で貸付料をいただくという考えに変わりはございません」と見解を示している。

 JR東日本も有価証券報告書に「貸付けから30年経過後の取扱いについては、協議により新たに定めることになっております」と記している。またJR九州の青柳俊彦社長(当時)は2019年に「受益分や保全コストを30年と同様に計算した上で、受益の範囲で50年支払うという考え方はある」と述べたことがある。

 財務省の資料には「新幹線施設の貸付料については30年定額契約となっているが、新幹線施設が国の共有財産であることを踏まえれば、31年以降も引き続き適切な貸付料を徴収するのは当然」とあるが、これについては今更、議論の余地はないだろう。問題は大規模更新の費用をどのように算出するかだ。

財務省が指摘した
需要予測と実績の乖離

 もうひとつの指摘は、貸付料を算出する予測と実績の乖離だ。行政の需要予測は過大であるのが相場だが、整備新幹線に関しては、多くが需要予測を上回っている。国土交通省は、実際の収益が貸付料を上回った場合であっても、差額はJRの経営努力とみなし、追加の請求や貸付料の改定は行わないと説明する。

 しかし、財布の紐を握る財務省は、北陸新幹線の予測と実績の乖離が高崎~長野間は2割、長野~上越妙高間は5割、上越妙高~金沢間は6割にも達していることを問題視。高崎~金沢間はJR東日本とJR西日本が計420億円の貸付料を払っているが、実績を反映すれば追加で年176億円が得られたと主張した。