向き合えなかった
妻からのSOS

 出産とともに専業主婦になった妻は、娘が寝ているあいだにはフリーペーパーの編集にも絶えず助言をくれる参謀役だった。ママライターとしても活躍し、コンテンツが不足しがちな中で、創刊号から四年半にわたって「ヘルシー精進レシピ」を執筆してくれた。精進料理といえば、お坊さんが修行中にいただく粗食のイメージを抱く人が多いだろう。しかし、妻のレシピは、「ラタトゥイユ」「アンダルシア風ガスパチョ」「お豆腐ケークサレ」など型破りなものばかり。魚や肉を使わず、ニンニクやタマネギも使えないなどの精進料理のルールを守ったうえで、いかに美味しく、見た目にも色鮮やかなものを作るかに徹底してこだわり抜いた。

 フリーペーパーの誌面では、他にも尖ったコンテンツを載せ続けた。仏教をモチーフにした歌で教化活動する「歌うお坊さん」や、紙芝居や人形芝居を上演して全国に笑顔を届けるお坊さんなど、変わり種とされていたお坊さんも数多く取材した。個性を押し殺してマニュアル通りに生きるのではなく、個性を発揮してもがきながら新しい仏教を作っていく。そんな「フリースタイルな僧侶たち」の活動は、多様な価値観が認められる時代にふさわしい仏教を提案するものだとして、大きなインパクトを与えた。