「現代の苦しみに寄り添い、解決に導いてこそ仏教の価値がある」
「お寺はあらゆる人々に開かれているべきだ」
虚しく響く私の言葉を聞いて、妻だけはいつも背中を押してくれた。さすがしがらみのない世界に生きてきた人は、曇りない目で社会を見ていると思った。
業を煮やした私は、妻以外ほとんど理解者のいないままに、2009年8月に「フリースタイルな僧侶たち」というチームを発足させ、自分たちの思いを綴ったフリーペーパーを発行しようと決めた。「たち」と複数形にしているわりにソロプロジェクトに近かったが、フリーペーパーを配布し続けて、街中で自分の思いを伝えていけば、いつか振り向いてくれるお坊さんも増えてくるだろうと願った。
妻の妊娠がわかったのは、ちょうどその準備をしていた頃だった。さすがに動揺した。知恩院に週5日奉職しているところに、新しい仕事を抱えれば、私が育児にかかわる時間はどうしても減る。ましてや収入の足しになるとは到底思えないフリーペーパーの発行など、良い顔をするはずもない。「このまま進めてもいいのか」と、おそるおそるおうかがいを立てた。そうすると、すぐに「もちろん」と返事してくれた。あっけにとられた。「理解ある妻でよかった」と感謝した。そして、この言葉を鵜呑みにして、ますます自分のプロジェクトに打ち込んだ。