夫婦が力を合わせ、二人三脚で勝ち取った成功。周囲からは、ますます活躍する夫を妻が支え、理想的な家庭を築いているように思われていた。

 だが一方で、妻の心は悲鳴をあげていた。

「お寺の奥さんには向かないぞ」両親の反対の末に“自由人な妻”を得た住職の波乱万丈生活『住職はシングルファザー』(池口龍法著、新潮新書)

 活動が軌道に乗るにつれ忙しさは増し、育児家事はまかせっきりになっていったからである。2011年に第二子の長男が生まれると、妻にかかる育児の負担はさらに増えた。私は面白いお坊さんがいれば全国どこにでも取材に出かけていったし、編集で忙しい時は事務所にこもりっきりで日付が変わるぐらいまで帰らなかった。幼稚園入園前の子供2人と暮らしていた妻は、孤独だったと思う。「週に1日ぐらい休みを」とも言われたが、取材の依頼などがあればどうしてもそちらを優先することになった。妻は「大人と話したい」としきりに愚痴っていた。

「仏教を生きる力に」とトークイベントやメディアの取材では繰り返し叫んでいたのに、恥ずかしながら、私は妻の苦しみに向き合えていなかった。あの時SOSを受け止めて、少しでも妻に向き合っていたら、坂を転げ落ちていくことはなかったかもしれない。悔恨の極みである。