私が執行を命じた死刑囚はほとんどが虐待を受けており、「こんな育て方をされちゃかわいそうだな」と思うような子供時代を送っていました。いろいろ事情はあると思いますが、子供は誕生を祝福され、生まれてきてよかったと思える環境で育つことが大事だと、つくづく思います。

 1人だけ、タイプの違う死刑囚がいました。高校の同級生が「あいつはクラスのホープだった。必ずひとかどの人間になると思っていた」と証言していたのです。死刑判決を受けるような残虐な罪を犯す人に、こういう証言が出てくるのは珍しい。不思議に思っていると、秘書官が「これはばくちです」と言いました。ばくちに狂い、カネに困って犯した罪だったのです。

 私がカジノを含む統合型リゾート施設(IR)の法整備に慎重だったのは、そういう人の死刑執行を命じなければならなかったからです。カジノは地域の発展に役立つかもしれない。ばくちをやった人がみんな犯罪に手を染めるわけでもないでしょう。それでも、もろ手を挙げて賛成する気にはなれないのです。