ただし、死刑制度に対する世論の動向はよく見極める必要があるでしょう。内閣府が5年に1度実施している世論調査では、約8割が死刑制度を容認しています。一方、世界的には死刑を執行している国は少数派。(冤罪などの)弊害もないわけではありません。そういったことには十分に意を用いるべきだと思います。

ほとんどの死刑囚が
虐待を受けて育っていた

《執行命令書の署名にあたっては、判決の関連資料を読み込み、死刑囚の生い立ちや犯罪に手を染めた経緯などにも意識を向け、自分なりに納得した上でサインすることを心掛けた》

 死刑判決の資料はできるだけ丁寧に読むようにしていました。人の命を奪えと命令する以上は、そのために部下がそろえてきた資料をよく読み、「よし、これはやるべし」というふうにしないといけないと考えていたのです。

 だけど、きちんと読み込もうと思ったら結構大変なんです。持ち出し禁止の資料は法務省の大臣室でしか読めませんから、国会会期中は読む時間があまりないんですね。それで執行が閉会直後になると「会期中を避けたのでは」と言われることもありました。

 他の法相経験者はどうか知りませんが、私は大臣室の引き出しに仏像と数珠を入れておき、署名時に手を合わせていました。やっぱり、なかなか荷の重い仕事ですから。