ひろゆきも、「いかにラクして効率的に結果を出すか」(『ひろゆき流ずるい問題解決の技術』)と述べており、「努力しないで何かを手に入れるための努力」(『無敵の思考』)を称揚する立場である。
「大きな成功から小さな幸福へ」
人々の関心が根本的に変化
ここ数年、マキューンのようなタイプの自己啓発書がやたらと増えている。前述のダウンシフトの時流がその大きな背景にあるが、より根本的な変化は、やはり「社会的な成功から個人的な幸福へ」「大きな成功から小さな幸福へ」という人々の関心の地殻変動だ。
タイムパフォーマンス(タイパ)もこういった価値観の変容と軌を一にしている面がある。わたしたちが考えている以上にこの根本的な変化は、消費の仕方などの表面上のものだけにとどまらず、生活の隅々に行き渡りつつあるようだ。
結論を少しばかり先取りすると、ひろゆきブームは、このような必然的ともいえる国内外の趨勢の一端であり、単体で評価することにあまり意味はない。変化の兆しを知らせる様々な社会現象の1つに過ぎない。彼がコロナ禍以降、祭り上げられているのは、世の中が彼を好意的に解釈する時代精神の影響下にあるからである。
このように捉えると、日本社会の展望も見えてくる。恐らく大局的には、仕事よりもプライベートを優先し、身体を壊すような無理な働き方はせず、出世競争とも距離を置く人々がどんどん増えていくことだろう。
そして、経験の価値や効率性に関わるコストパフォーマンス(費用対効果)は重視され、大それた夢はもとより、見栄や世間体等々、自分の人生を不幸にしかねない“常識”、骨折り損に終わりそうな事柄を、残らず頭の中から取り除こうとし、できるだけシンプルに生きようとするだろう。
「引き算志向で、脱力的で、自己防衛的なライフスタイルの拡大と定着」である。
もちろん、これが社会全体にとってどのような状況をもたらすかは別の問題であるし、個々のトレンドや議論に異論を唱える人もいるに違いない。
だが、わたしたちが新時代に相応しい生き方を模索している真っ最中で、今のところ、「がんばる」よりも「がんばらない」路線が相当の支持を集めていることは、今後を占う上で絶対に過小評価してはならない点である。