かつて日産自動車には、ファンを魅了する人気モデルがあった。「スカイライン」は、モデルごとに“ハコスカ”、“ケンメリ”などと呼ばれ、多くの若者の支持を得た。「ブルーバード」も、スーパースポーツセダンタイプを投入したことで人気が高まった。しかし、今の日産には、「欲しいと思う車が見当たらない」と指摘されている。魅力あるクルマを造るDNAが十分に発揮されていないか、そもそもそうしたDNAを失ってしまったのか――。経営悪化の元凶は何か。「モノ言う株主」の増加は、今後どんな影響をもたらすのか。(多摩大学特別招聘教授 真壁昭夫)
日産は「リストラの罠」にハマっていないか?
日産自動車の経営悪化が、深刻になっている。日米中の主要市場で販売は伸び悩み、競合他社に比べて売上高は伸びていない。2021年以降は、世界的な物価上昇の影響もあり売上原価が増加し、粗利はすう勢として低下している。24年7~9月期の最終損益は、93億円の赤字に陥った。
日産の収益力低下の最大の要因は、欲しいと思うクルマ、売れるクルマをなかなか生み出せないことにあるだろう。最近、日産は目立ったヒット車を生み出せていない。自動車専門家の間では、「かつて名車を次々に送り出してきた、日産の企業文化はどこへ行ったのか?」という声が多い。
米新車販売市場では、わが国自動車メーカーのハイブリッド車(HV)の人気が高い。クルマ自体の乗り心地、航続距離の長さ、安全性、インフラの充実、価格などが評価されている。日産はそうした需要を、十分に取り込むことができていないようだ。
業績改善に向け、日産は度重なるリストラを余儀なくされている。ただ、いつまでもリストラを続けていると、最終的に企業の活力は減殺されてしまう。
わが国を代表する企業の一つである、同社の業績懸念がさらに高まるようだと、下請け企業などのサプライヤー、金融機関などにマイナスの影響が広がることも考えられる。それは日本経済全体にとって重大な損失になるはずだ。