私は、彼の批判的なおしゃべりに心底うんざりしていた。いいかげん、このオフィスから蹴り出してやりたい気分だったよ。『批判する人の質問』が、私の頭のなかを乱暴に駆け抜けていった。

『私はこんな男に付き合わされるようなことをしただろうか?』

『いったい自分を何様だと思っているんだ?』

 だが、ふと自分がやっていることに気づいて、私は声をあげて笑いだしそうになった。

 他人を批判している相手を、私は批判していたんだ。私も彼と同様、『批判する人の考え方』をしていたんだ。私自身が『批判する人』に乗っ取られていたんだよ」

 自分自身に起きた話を、ジョゼフはいかにも楽しげに話していた。私はこう尋ねた。

「そこで、『選択の地図』はどんな働きをしたのですか?」

図1選択の地図『選択の地図』同書より転載 拡大画像表示

「最初はただ、なにかが変だということに気づくんだ。おそらく、緊張感や動揺、あるいはなんとなくうまくいかないなという感覚だろう。

 それは自己観察力にスイッチが入り、意識が鋭敏になっているということだ。身体はもっとにぎやかなサインを送ってくる。頭の反応より先に起こることも多い。

 突然、肩が耳のあたりまで上がっているのに気づいたりする。お腹がグーグー鳴りだしたり。そして、自分に問いかける。

『今の自分は批判する人になっていないだろうか?』

 答がイエスだったら、また問いかける。

『これが私の望む状態だろうか?』

 もちろん、今の話に関しては、答はノーだ。自分が『批判する人』になっているのに、そんな状態でどうやって相手を助けられるというのか。

『批判する人の立場』で人を助けることなどだれにもできない」

『批判する人の立場』で人を助けることなどだれにもできない。