しかし実は、Aさんには、愛人との間に子どもがいました。Aさんは愛人には、「今は立場もあるから認知できないけど、ちゃんと財産を残すようにしておくから安心してほしい」と伝えていました。

 Aさんはその言葉どおり、遺言の中で愛人の子どもを認知しました。死後であれ認知が認められれば、愛人の子どもも法定相続人になります。

 残された家族にとっては寝耳に水で裏切られたと感じるかもしれませんが、愛人の子どもは実の父親から認知されなければ、何も相続できません。死後認知は、婚外子の保護を目的とした制度であり、婚外子にとっては最後の救いという意味合いがあるのです。

「俺だけなんてもらえないよ」
兄弟姉妹合意で遺言書を破棄

 夫を亡くしたヨネは田舎の自宅で一人暮らししていましたが、85歳になってさすがに戸建てでの一人暮らしが大変になってきました。そこで、ヨネの子どもたち4人で相談したところ、自宅を売却してヨネを高齢者住宅に入居させることに。兄弟姉妹4人は全員、都会に出てそれぞれ家庭を持っています。

 ヨネが89歳で亡くなると、遺言を残していることがわかりました。そこには「一切の財産を長男の等に相続させる」と記されていたのです。ヨネが残した財産は預貯金2000万円でした。等は妻に相談しました。

図:八島家同書より転載 拡大画像表示

「俺だけ全部もらうわけにもいかないよな。俺が2000万円全部もらったら、兄弟仲、悪くなるよな。もう子どもも独立しているし、山分けでいいよな」

 等は大手企業に勤めているので、お金には困っていません。

「そうね。兄弟みんなで分けたほうがいいわよ。1人500万円でいいんじゃないの?」