と、妻も同意。葬儀のあと、兄弟姉妹4人が集まって、相続について話し合うことに「遺言書だと、俺が全部相続することになっているんだけど、みんなで分けないか?」

 等がこのように切り出し、結局、兄弟4人合意のもと、遺言書を破棄して500万円ずつ相続することになったのです。

相続人全員が合意すれば
遺言書を破棄できる

 この事例のように、相続人全員が合意すれば、遺言書を破棄することができます。特に裁判所での手続きなどは必要ありません。相続人全員合意のもと、遺産分割協議書をまとめればいいのです。

 実際、次のような事例があります。土地をいくつか持っている地主が亡くなり、次男がその中のひとつの土地に家を建てたいと考えていました。それは長男としても大歓迎で、兄弟の間で「いいよ、そこに家、建てたらいいよ」という話になっていたのですが、遺言書には「長男にすべての土地を相続させる」と書かれているではありませんか。

 長男がいったん相続してしまうと、そこから次男に売買や贈与で権利を移さなければなりませんし、そのためにはコストがかかります。さらにそれが農地であれば、農地法の問題で権利を移すのは難しいでしょう。こうした場合、長男と次男が合意して遺言を破棄し、2人で遺産分割協議を進めることがあるのです。

書影『あるある!田舎相続』(日刊現代)『あるある!田舎相続』(日刊現代)
澤井修司 著

 実際に私のところにも、「兄弟姉妹が相続した土地を自分に移したい」という相談がよくありますが、簡単に移せるわけではありません。私は相続発生時に、「将来的に、兄弟姉妹のどなたかが遺された土地に、マイホームを建てるなどの予定はありますか?」と確認します。すると「そういえば、そんなことを死んだ親父と話した」と記憶が呼び起こされることもあります。このような場合は相続時に、その土地を活用する予定のある相続人に土地を相続させておくほうがスムーズです。

 それでは、こうしたケースの場合、遺言を書いた人は余計なことをしたのでしょうか?――必ずしもそうとはいえません。遺言があるから長男が主導権を握って相続の話ができるという側面があるからです。

 もし、遺言がなかったら、次男はもっと欲張って「半分土地をよこせ」と言ってくるかもしれません。とりあえず「すべての土地を長男に相続させる」という遺言を残したからこそ、兄弟でもめることなく円満な相続になったともいえるでしょう。