昨今の気候変動によって、夏と冬はエアコンの利用が今まで以上に欠かせなくなっている。しかし、電気代が高くなるのも悩ましい。そんなエアコンの消費電力を圧倒的に効率化できるのが、地中熱を利用する方法だ。地中熱を研究する産業技術総合研究所が、そのすごい効能を紹介する。※本稿は、ブルーバックス探検隊、産業技術総合研究所『あっぱれ!日本の新発明 世界を変えるイノベーション』(講談社)の一部を抜粋・編集したものです。
消費電力を3~4割も削減
今こそ「地熱」ではなく「地中熱」
「高いよなあ」
「高いですねえ」
電気料金の高騰が日本列島を直撃していた2023年初頭。都内某所にある探検隊(編集部注/本稿の取材や執筆をしている「ブルーバックス探検隊」)のオフィスでも、今月分の電気料金をにらみながら隊長とK田隊員がため息をついていた。
「なんでこんなに高いんだ?」
「やっぱりロシアのウクライナ侵攻の影響で原油や天然ガスが値上がりしていますし、地球温暖化対策のために化石燃料の使用にも制限がかかっていますからね」
「なんとかならないのか?」
エアコンを切ったままのオフィスで、隊長は大きなくしゃみを連発しながらK田に命令した。
「こ、こんなとき、産総研なら、なんとかしてくれるんじゃないのか。すぐに電話してみろ!」
「そ、そんな、ウルトラマンじゃあるまいし」
しぶしぶ電話をかけたK田が、受話器を置くと声を弾ませて言った。
「隊長!産総研の人が、いまから来てくれるそうです!」
渡された名刺には、「産業技術総合研究所・福島再生可能エネルギー研究センター地中熱チーム研究チーム長内田洋平」とあった。
「私たちが開発しているエネルギーを、たとえば冷暖房に利用すると、消費電力を通常の3~4割も削減できます。しかも、二酸化炭素の排出量も4~5割削減できるんです!」
内田さんのいきなりのアピールに、隊長とK田は前のめりになった。そんな都合のいいエネルギーがあるのか?
――いったい、そのエネルギーとはなんですか?
「それは、地中熱です」
――地中熱?ああ、地熱のことですね。知ってますよ。地熱発電とかに使われるんでしょ?
「みなさん、そうおっしゃいます。でも、全然違います」
――えっ!?
「地熱は、地下2000~3000mほどの深いところがマグマの熱によって200度とかそれ以上の高温になっているのを、発電などに利用するものです。しかし地中熱は、もっとずっと浅い、数十mからせいぜい100mくらいの地下から採る熱です。温度としては、その土地の年間平均気温よりもほんの少し高いくらいです。地熱が地球深部の活動による熱なのに対して、地中熱は太陽によって温められた地盤の熱なんです」