「AIやロボットに人類は駆逐される?」気鋭のロボット開発者の答えは…映画「ターミネーター」で暗示されているような機械との戦争が待つ未来。その可能性があるかないか(写真はイメージです) Photo:/Paul Gilham/gettyimages

画像や文章生成AIが爆発的に世の中に浸透する中で、世界や未来に不安を抱えている人は少なくありません。ソフトバンクの孫正義氏の下、ヒト型ロボット「Pepper」に携わり、その後起業して世界初の家族型ロボット「LOVOT(らぼっと)」を開発したGROOVE X 創業者・CEOの林要氏。林氏は、「テクノロジーの進歩」と「人類の不安」の間で広がるギャップを埋め、テクノロジーと人類の架け橋になるために生んだのが、家族型ロボット「LOVOT」だと言います。林氏が考える「人類とAIの新しい世界線」とは?前回に続き、『温かいテクノロジー AIの見え方が変わる 人類のこれからが知れる 22世紀への知的冒険』(ライツ社刊)からの抜粋です。

「ターミネーター」みたいな世界は、
ほんとうにやって来てしまうのか

「テクノロジーが進歩し続けた未来で、人類は駆逐されてしまうのではないか」。

 映画「ターミネーター」で暗示されているような機械との戦争が待つ未来。その可能性があるかないかで言うと、可能性はゼロではないでしょう。

 ただしそれは、ぼくらが今後もテクノロジーを「生産性向上のためだけに使い続けた場合」の世界線です。

 ぼくは、テクノロジーを「火」にたとえて話すことがあります。

 自然に火を使いこなすようになった種は、人類しかいません(一部のボノボは人類が教えたことで火を使えるようになったことが確認されているようですが、種として使えるようになったわけではありません)。

 最初に火を使ったときは、きっと火傷したでしょうし、火事が起こって何人も大切な家族を亡くした人もいたことでしょう。火を扱った人のなかには「あなたがこんなことをやり出すから大惨事になったんだ!」と、責められた人もいたと思うのです。

 それでもぼくらは火を使い続けました。徐々に火を使いこなし、次第にリスクは減り、人類が発展するための原動力になりました。

 火の利活用もAIやロボットの利活用も、ほかの動物が使いこなせないテクノロジーと言えます。「使うほうがいいのか」「使わないほうがいいのか」という2択は妥当ではなく、「使いながら試行錯誤する」という選択肢が現実的です。

 結局は、人類の意思決定の問題なのです。

 だからこそぼくは、まずはLOVOTで、テクノロジーも使い方によっては人類を大切にできるし、信頼に足り得ることを証明したいと思っています。LOVOTの起こす奇跡を増やし、「テクノロジーは敵だ」という盲目的な不安を減らしたいのです。

2045年、シンギュラリティは
起こるのか

 アメリカの人工知能研究者として広く知られるレイ・カーツワイル博士は、テクノロジーが進歩してAIもかしこくなっていくその過程を「収穫加速の法則」という考えで説明しています。ざっくり言うと、テクノロジーは直線的ではなく、倍々ゲームのように進歩するという経験則です。

 そして2045年、「シンギュラリティ」が到来すると言われています。

 シンギュラリティは、日本語では「技術的特異点」と訳されます。AIが「収穫加速の法則」に基づいてかしこくなり、人類の知能を追い越すという重要なタイミングを示します。その時期が2045年ごろになるだろうというのが、博士が「シンギュラリティ」という名称で示した未来予測です。

 ぼくらは、農業を始めてからインターネットを発明するくらいまで、数千年というそれなりの年月をかけてゆっくりと変化を起こしてきました。けれども「収穫加速の法則」によると、今後はたった数十年単位でそれに相当するような変化が起こると、博士は言います。いままでは生活を根本的に変えてしまうような歴史的な変化に、一生のあいだに1回でも立ち会う機会を得ることのほうが稀だったのに、今後はそれが複数回起こるのがあたりまえの時代になるわけです。

 手紙(最初は粘土板でした)ができてから電報が生まれるまでは5000年以上。にもかかわらず、そこからメールになるには100年しか要しませんでした。そのあとわずか30年でIT革命が起こり、新しいサービスが生まれてから世界に行きわたるまでの時間は、わずか数カ月になりました。そのスピードがさらに加速するイメージです。

 知識が集まってくると、その知識がさらに異なる知識を創発し、いっそう早く変化が起こります。お金はお金のあるところに集まるように、知は知のあるところに集まるのです。

 人類の知能をも超えるかしこい人工物が生まれる。そうして爆発的にテクノロジーが進歩していく未来に対して、不安まじりの問いを持っている人も少なくないはずです。

「テクノロジーが進歩し続けた未来で、人類は駆逐されてしまうのではないか」と。

 ただその過程を整理して考えてみると、悲劇的な未来を憂うより、いますぐにでも温かい未来に向けて歩みを始めるほうがいいことがわかります。

2030年代、AIが「人類以外」の
動物に追いつく

 シンギュラリティが2045年ごろに到来するのであれば、それより手前に起こると予測される別の出来事があります。

 それは「AIが自律性を獲得し、人類以外の動物の知性に追いつく」というタイミングです。2045年に、AIが人類の脳と同等以上の探索、学習、創造をともなう情報処理ができるようになるのであれば、2030年代には、犬や猫の脳を超える自律的な判断や情報処理をAIがしていてもおかしくはありません。

シンギュラリティの一部は
すでに到来している

 ChatGPTの登場で、「もうシンギュラリティが到来したのではないか?」と感じている人もいるかとは思います。ChatGPTは「GPT-X」(Xはバージョンの数字)などの名前がついた大規模言語モデルを利用したAIチャットです。その「GPT-X」は、現時点では生き物のような自律性を持たず、その進化にも人類の力が必要です。将来、「GPT-X」が「GPT-X+1」を自律的に開発できるようになったら、それはシンギュラリティの到来と言えるでしょう。

 しかし、そこにはまだ、かなり大きな変革が必要です。なぜなら、いまの大規模言語モデルはどんなに優秀に見えても自律性はなく、入力に対する「一般化されたパターンの再生」という枠を超えていないためです。ただ「AI自体が、自らよりもかしこいAIを生み出し続ける」というプロセスの一部分だけ見れば、コンピュータ囲碁プログラム「AlphaGo」が「囲碁の打ち方の改善」という限定的な領域において、すでに実現しています。

 AIがAIと対局を続けた結果、人類よりもかしこく囲碁を打てるようになりました。

 それまでのAIは、人類と対局したり、人類が積み重ねてきた過去の棋譜(きふ)を学習したり、適切な打ち手を判断するための「評価関数」を人に与えられたりして強くなろうとしていましたが、「AlphaGo」は学習プロセスを変えました。人類から学ぶことをやめ、AI同士で膨大な対局を重ねた結果、人類を超えたアウトプットを出せるように進歩した。つまり、「AIが自ら学び、改良する」という、かなり重要な技術的進化を実現したのです。

 アルゴリズムの改変をAIが自ら行う(自らの構造を自らの手で改変する)わけではなく、あらかじめ決められたプロセスでの学習という限定的な領域ですが、適切な評価関数を造る能力は人類を超えたと言えます。今後は、このような進歩がますます加速していきます。