掘るのが大変な日本の地質
そこに思わぬ“お宝”があった
――日本の地盤が軟らかいのは、穴を掘りやすくて好都合なんじゃないですか?
「逆です。軟弱な層を掘るほうが、硬い層を掘るより難しいんです。軟弱だと掘っていくうちに上のほうから崩れてしまうので、その対策が必要になるからです。また、深さによって地質が変わりやすいので、それに合わせてドリルの刃を交換したり、掘るスピードを調節したりしなくてはなりません。いわば職人技が必要になるんです。まあ、じつはそのおかげで、日本の掘削技術は世界一といわれるほど発達してもいるのですが」
――ということは、そもそも日本の地質は地中熱利用に向いていない?
「最初はみんな、そう思っていました。ところが、じつはそうではなかったんです」
ここから、内田さんの話はさらにヒートアップしてきた。
「日本の第四紀層の地盤には、空隙が多いと言いましたね。その隙間には、地下水が流れていることが多い。それも大量に。隙間が水で満たされることで、どうなるかといえば、地盤の熱伝導率が大きくなるんです。さらに、地下水の流れは熱を輸送するので、熱伝導率はさらに大きくなる。だから、地下水が流れている地層の“みかけの熱伝導率”は、岩盤のそれを上回るほど大きくなります。つまり、日本の地質ならきわめて効率のよい地中熱利用が可能なんです」
――豊富な地下水をもつ日本はむしろ地中熱利用に適しているのに、そのことが知られてこなかったばかりに、普及が遅れているということですか?
ブルーバックス探検隊 著、産業技術総合研究所 協力
「日本中どこでも適しているというわけではありませんが、地中熱を活用するメリットの大きい地域はたくさんあるでしょう。じつにもったいない話です。二酸化炭素を出さないカーボンニュートラルは、全世界の喫緊の課題です。それを推進するための絶好の“お宝”が足元に埋まっているのに、ろくに利用されていないんですから」
嘆かわしい、という表情をして内田さんは一呼吸置き、われわれの顔を見た。
「そこで、私たち産総研の地中熱チームの出番となるわけです。費用のかかる調査をしなくても、地中熱利用に適している場所かどうかを知ることができたら、導入へのハードルはかなり低くなるでしょう。私たちはそうした情報を提供するための手法を研究しているんです」