地中熱の普及が遅れている理由
「日本と欧米の地質は違う」
「オレンジ色の棒グラフは、実際に地中熱利用システムを導入した北海道の住宅や、青森県・弘前市の公共施設、山口県の中学校で、灯油などを使った冷暖房に比べてどのくらい省エネになったかを示しています。その効果は一目瞭然ですね」
しかも、と内田さんは力を込めて続けた。
「緑の棒グラフは、二酸化炭素の排出量を比較しています。地中熱利用システムは、二酸化炭素を出す量も、従来の冷暖房よりうんと少なく抑えられます」
グラフに見入りながら、隊長とK田隊員は同じことを考えていた。いままでエネルギー問題といえば、いかに発電するかということばかり考えていたけど、使う電力を減らしても、結果は同じことだ。
しかも、そのほうが二酸化炭素の排出量も減らせるなら、いま世界的に必要性が叫ばれている再生可能エネルギーとしても、もってこいだ。地中熱がそんなすぐれものだったなんて、知らなかった。
内田さんは、地中熱利用システムが導入されている施設の名前が並んだ資料を見せてくれた。なんと東京スカイツリーの冷暖房にも採用されているらしい。
外食産業の「びっくりドンキー」も店舗に導入していて、2005年に「地中熱ヒートポンプによるレストランの省エネルギー」の取り組みが「北海道省エネルギー・新エネルギー促進大賞」の省エネ部門奨励賞を受賞している。
そのほか、「LIXIL住宅研究所フィアスホームカンパニー」は、地中熱利用と太陽光発電で「光熱費ゼロ」をうたう戸建て住宅の販売を2011年に開始しているなど、早くから地中熱システムを導入している例はいくつかあるようだ。
とはいえ、だから「地中熱が普及している」とは、まだまだ言いがたいだろう。
「普及が遅れているもう一つの大きな理由が、地質の違いです。日本では、人が多く住んでいる平野や盆地は、『第四紀層』と呼ばれる約260万年前以降の比較的新しい地質で最上部が覆われています。これは砂・礫・泥などで構成された軟弱な地質で、その下に、硬い岩盤の層があります。一方、欧米のような大陸の地質は、第四紀層が薄く、数メートル掘れば硬い岩盤に達します。日本は場所によっては1000m掘っても第四紀層の底に達しません」