私はポストの前を息を殺してこそこそと通り過ぎる。おかしいよ、って思うかもしれないけど、本当なの。すべての時間が止まってしまったような気もする。カレンダーやスケジュール帳を見ることもできなくなり、いまがいったいいつなのかもわからなくなっている。約束はとうぜん、すべて破られる。

見捨てないでいてくれた
息子への感謝

 そんなふうだから、息子が小学生だったとき、彼が学校から持ち帰ってくる「保護者の方へ」と題された書類なども、当然、たまっていく。親はそれを読み、そしてなにか必要なことを書き込んで、切り取り線からきれいに切り取ったりして、期限までにこどもに持たせなくてはならないはずだ。わかっているけれど、それができない。

 ある日、息子が寝静まった深夜、ランドセルの中を、そおっとのぞいて見る。……やっぱり。息子ももうあきらめているのか、それともあたしへの気づかいなのか……。担任に向けて、書類の提出が遅れに遅れてしまったことへのいいわけとあやまりの手紙を、まよいながらまよいながら書いているうちに夜が明ける。親の私を悩ませるような書類を、いたいけな子どもを通して持たせる鬼のような学校に、心底、腹が立つ(思った通りにコトを進められない人間だっているんだよ!)。

 少し調子がもどれば、そんな私の怒りはたんなる逆恨みだとわかるのだけれど、その最中にはどうしようもない。息子からしたら、しょっちゅう横になっている母親が、めずらしく起きていると思ったら郵便物の山の前でぐったりしている、学校へ出すべき書類を前に、それを読むこともできずに、ただじっとしている……母親のそんな状態は、じつに不可解だったにちがいない。あたしのせいで、先生にいつも怒られてもいたかもしれない(ごめんね……)。

 こんな母なのに、息子、見捨てないでくれてありがとう。これからも、あたしはあんまり変わらないと思うけど、未永くよろしくおつきあいくださいね。