シニア社員がジョブ・クラフティングを行う意味

 中堅社員は年齢的にワーク・ライフ・バランスが問題になることが多い年代である。ワーク・ライフ・バランスの問題をジョブ・クラフティングの活用で解決できる可能性があるという。

高尾 ジョブ・クラフティングを活用してワーク・ライフ・バランスの問題を解決する視点を2つ紹介します。最初の視点は、ジョブ・クラフティングを実施することで、ワーク(仕事)とライフ(家庭生活、プライベート)の相乗効果で両者が充実するというものです。こうした相乗効果は「ワーク・ライフ・エンリッチメント」あるいは「ワーク・ファミリー・エンリッチメント」と呼ばれることもあります。

 2番目の視点は、縮小的なジョブ・クラフティングを活用するアプローチです。ジョブ・クラフティングには、仕事や人間関係を拡張する「拡張的クラフティング」に加えて、仕事や人間関係を縮小する「縮小的クラフティング」もあります。そうした縮小的クラフティングによって、ある業務への投入時間を減らすなどしてワーク・ライフ・バランスをより良い状態にするというものです。

 最後に、シニア社員のジョブ・クラフティング。シニア社員の場合、若手社員や中堅社員のニーズとは違う意味で、ジョブ・クラフティングが働きがいにつながっていく可能性があるようだ。

高尾 シニア社員の場合、昇進を期待できないと自分も周囲もわかっているなかで、どのように仕事を位置づけるかが課題となります。この課題解決に向けて、ジョブ・クラフティングが一つの手助けになり得ると思います。たとえば、役職定年などによる立場の変化への適応に苦労する人が多くいます。この場合、それまで、「~くん」と呼んでいた年下社員に対して、「~さん」と呼ぶようにするといった関係性クラフティングが効果的です。呼び方の変更によって自分の立ち位置を主体的に変えようとしていることは、相手にも伝わるはずです。フラットな関係性を再構築することが、今後の仕事のやりやすさにもつながるでしょう。

 あるいは、会社にあと何年いるのかを考えると、自分がこれまでやってきたことを継承したいという思いが湧き上がるかもしれません。単に仕事をしていくだけでは継承されないので、何を、どのように伝え、残していくのかを検討する必要があります。たとえば、若手社員との関係性を深める(=関係性クラフティング)、これまで蓄積したノウハウを雛形などに落とし込む(=業務クラフティング)といった自主的な取り組みによって継承がしやすくなります。