3つのタイプのジョブ・クラフティングを実践していく

 ジョブ・クラフティングは、「仕事の何を変化させるのか?」という観点から、3つのタイプに分類できる。

高尾 最初のタイプが、自分の裁量の範囲内で業務の内容や方法を変えていく「業務クラフティング」です。たとえば、イラストを描くのが得意な人が、マニュアル作成や改訂の業務において、効果的にイラストを挿入することで、読みやすく、わかりやすいマニュアルにするといった取り組みを挙げることができます。

 2番目のタイプが、人との関係の質や量を変えていく「関係性クラフティング」です。ほとんどの仕事は人と関わりながら進めていくので、その関係性の変化は仕事の手触り感に影響を大きく及ぼします。たとえば、チーム内での情報共有度が低い職場において、自分から積極的に情報発信したり、反対に他のメンバーに情報提供を求めたりする取り組みを挙げることができます。

 3番目のタイプが、仕事に関わるものの見方を変えていく「認知的クラフティング」です。これまでの2タイプが目に見える物理的な変化であるのに対して、認知的クラフティングは目に見えない認知的な変化です。たとえば、東京ディズニーリゾートの「カストーディアルキャスト」(施設内の掃除担当)を挙げることができます(*2)。カストーディアルキャストは、施設を清掃し、きれいにするにとどまらず、「自分もエンターテインメントの一角を担っている」と役割を捉え直すことで、いきいきと働くことができます。

*2 森永雄太氏(上智大学経済学部経営学科教授)の事例研究で詳説されている。

 仕事の意味を捉え直す場合、マクロの視点とミクロの視点を持つとよいでしょう。ミクロの視点とは、自分の仕事が誰の役に立っているのかを、同じ部署のメンバーなど、その人の顔がすぐに思い浮かぶ範囲で考えてみるというものです。マクロの視点とは、経営理念など、会社全体との関わりから自分の仕事を俯瞰するものです。「自分の仕事は経営理念のこういう部分に紐付いている」と思えると、仕事の手触り感も変わってきます。

 3つのタイプのクラフティングは互いに混ざり合ったり、影響し合ったりするという。そのため、「別々に考えすぎないほうがよい」と高尾先生は語る。

高尾 たとえば、マニュアル化が徹底されている仕事で考えてみましょう。この場合、いきなり、業務クラフティングに取り組むことは難しいかもしれません。一方、「この仕事は、この人とこのようにつながっている」「お客さまにとって、こういう意味がある」と把握することで、仕事の意味づけを変えること(=認知的クラフティング)が可能です。加えて、自分の中で閉じていてはそういった意味を把握しづらいので、関係者との関わりを変えていくこと(=関係性クラフティング)のきっかけにもなります。こうして、認知的クラフティング、関係性クラフティングに取り組むことで、仕事を見る解像度が高まり、マニュアルの制約下でも業務クラフティングの余地を見出せることがあります。

 先ほど紹介した東京ディズニーリゾートの「カストーディアルキャスト」の例でいえば、自分の役割を捉え直す認知的クラフティングを実施することが、業務クラフティング(清掃器具を用いたパフォーマンス(*3)で来場者を楽しませる)や関係性クラフティング(来場者との接し方が変わってくる)へと発展しています。

*3 清掃器具を用いたパフォーマンス:ここではカストーディアルキャストが持っているトイブルーム(ほうき)と水で、ミッキーマウスの顔などディズニーキャラクターを描く「カストーディアルアート」を指す。

 このように3タイプのクラフティングのうち、何か一つを主体的に変化させることができれば、他のクラフティングが知らぬ間に混ざってきたり、他のクラフティングの余地が見えてきたりする可能性があります。したがって、あまり、別々に考えすぎないほうがプラスの効果を期待できるでしょう。