会社全体のITリテラシーを高めていくために…
芦川さんは、社会人としての仕事をエンジニアからスタートした。当時、どのようなことを感じ、また、芦川さん自身の経験から、現在、IT人材を雇用する企業に望むことは何か。
芦川 何を基準に、どう評価されているのかがわからない点がすごくモヤモヤしていました。自分の学び得た技術が評価につながる感覚が乏しかったですね。これは給与や賞与につながる人事評価の話だけではなく、自分の技術がどのように社会にインパクトを与えて、どう評価されるのかもイメージできませんでした。評価されている実感がないと、学ぶ気力も薄れていきます。エンジニアに限ったことではないですが、ミッションの達成やビジョンの実現にどれだけ貢献したのか、というフィードバックは大切だと思います。経営戦略において、IT活用が最優先事項ではなかった頃は、エンジニアに対してそのようなフィードバックが弱かったのかもしれません。これを強化するためには、良い職場環境に加えて、エンジニアの技術を正しく評価する仕組みも必要でしょう。また、エンジニアの技術以外の評価は定量的に測れるものが少なく、プロジェクトをうまく推進できたか、プロジェクト全体の利益率はどうだったか、などになりがちです。人事側がエンジニアに対する理解を高めるのと同時に、エンジニア側が評価を含む人事業務の理解を高めることができれば、エンジニアを適切に評価することができる仕組みを作れるようになります。
多くの企業が共通して持つ課題として、特に、シニア社員のITリテラシーの低さがある。それが、DXを阻む要因にもなっているのではないか?
芦川 コロナ禍でシニア社員のITリテラシーは上がったと思います。それまで、オンライン会議なんて考えてもいなかった方が、テレワークによってやらざるを得なくなった。社会環境の変化や上層部からの大号令で、誰もがオンラインに向き合うことになったのです。デジタライゼーション(*11)を、誰の手も借りずに自分で行わなければならない状況になれば、自ずとITリテラシーは高まります。
そして、何をきっかけに意識が変化するかは人によって異なります。年長者に限らず、若手社員の中でも、強制力によってしかたなく動く人もいれば、「乗り遅れる」という危機感で変わる人もいます。ガラケーを使っていたシニアが「孫の写真をきれいな画像で見たい」という単純な理由でスマホに切り替えたりもします。企業側は、変わるための「いろいろな理由」を用意すること――それが、社員のITリテラシーを高めていく方法のひとつだと思います。
*11 経済産業省は、「DXレポート2」(2000年12月)で、DXを「デジタイゼーション(アナログ・物理データのデジタルデータ化)」「デジタライゼーション(個別の業務・製造プロセスのデジタル化)」「デジタルトランスフォーメーション」の3つに分解している。