カプセルを二つ持った手写真はイメージです Photo:PIXTA

自分が不幸のどん底にいるような気持ちになってしまったときは、人類全体や地球レベルまで視野を広げて考えてみてはどうだろうか。自分の現状を客観的に捉えることで、少し気が楽になるはずだ。※本稿は、清水 研『不安を味方にして生きる:「折れないこころ」のつくり方』(NHK出版)の一部を抜粋・編集したものです。

地球に暮らす全人類の中で
自らの現状は本当に不幸なのか

 以前、友人と、友人の大学生の息子さんと食事をしました。息子さんは通っている大学の環境が合わないようで留年を繰り返しており、現在の生活に不本意な気持ちをもっているそうです。そして、「ああ、自分に生まれてきたくなかった」と言ったのです。

 私は彼の話を聞き、たしかにそれは困難な状況だと苦境をねぎらいました。一方で、「自分に生まれてきたのが不幸だ」と感じていることについて、少し思考の転換が図れないかと、次のような話をしました。

「いまの自分に生まれてきたくなかったと思っているんだね。それはとてもつらいだろう。だったら、ちがう人の人生と交換できるガチャを引かせてあげよう。地球ガチャっていうんだ」

「どんなガチャですか?引いてみたいな」

「いま地球の人口は80億以上いると言われているよね。全員の人生をガチャにして、引いた人の人生をかわりに生きるんだ」

「へー、おもしろそう」

「G7の人口を合わせても7億8千万ほどと言われているから、経済的にはきみが日本よりも豊かな環境に生まれる可能性はあまり高くない。それよりも、飢餓や戦乱に見舞われていたり、あるいは人権が保障されていなかったりする国に生まれる可能性のほうがはるかに高い。どうだい、地球ガチャを引きたいかい?」

「うーん、どうだろう」

「それならもうひとつ、人類ガチャというのもあるんだ」

「それ、なんですか?」

「人類(ホモ・サピエンス)の誕生は30万~20万年前と言われているけど、人類の誕生から現在にいたるまでに生きた全員の人生をガチャに入れて、引いた人の人生をかわりに生きるんだ。

 文明の誕生から現在まで1万年程度だから、文明誕生前の人生を選ぶ可能性がかなり高い。衣食住に事を欠き、猛獣が襲ってくるのが日常みたいな時代に行くかもしれないが、人類ガチャを引いてみるかい?」

平和で安全なのは「当たり前」?
感謝の心が人生を豊かにする

「うーん、それならいまのままのほうが良いかもしれないな」

「そうだよね。いま向き合っている状況はたしかに困難かもしれない。ただ、私たちが暮らしている世界は、かなり恵まれていることはきちんと認識しておいたほうがいいよ。

 平和で身の危険を普段は感じず、生活保護などのセーフティネットがあるので衣食住はある程度保障され、基本的人権が守られている。

 生まれてからずっとそういう環境で生きていると当たり前のことと錯覚してしまうが、ほんとうは得がたいことだという認識をもてれば、感謝の気持ちが湧いてくる。

 押しつけがましく聞こえるかもしれないけど、そうじゃないんだ。“ああ、こうやって暮らせているのはありがたい”と思えると、自分の人生を肯定して、幸せに思えるんだよ」