埼玉大学の長所発見テスト「VSAT」とは何か?

 日本では、小学校(あるいは幼稚園)から高校まで、受験のために「弱み(短所)」をなくし、平均的な学力向上を重視する傾向が強い。しかし、大学は「長所」を伸ばすところだと石阪教授は強調する。だからこそ、自分の「長所」に気づく必要があるが、自分だけではそれがなかなかできない。そこで役立つのが、埼玉大学オリジナルの“長所発見テスト「VSAT」”だ。「VSAT」は2019年に試験運用を開始し、2020年から本格的にスタートした。

石阪 一般的なアセスメントテストは、設定された項目ごとに「良い/悪い」「強い/弱い」をジャッジし、受検者の課題を抽出するのが目的です。それに対し、「VSAT」は、課題を抽出するのではなく、長所への気づきを受検者に与えるのが目的です。「適職診断」のイメージを持たれるかもしれませんが、そうではありません。「適職診断」は受検者の適性を固定的に捉えがちです。私も、「適職診断」を学生時代に受けましたが、「大学教員は向いていない」という結果でした(笑)。しかし、仮に、いま受ければ違う結果が出ると思います。

「VSAT」は、受検者の「現在」とともに、「将来」の成長の方向性や行動変容の可能性を示します。テストの具体的な内容は、行動に関する60ほどの質問があって、どれが自分の考えや日常の行動に近いかを選んでいきます。結果は、「基礎力」「対話力」「思考力」「実践力」に関連する24種類の特性について、0から100の点数で表されます。

 点数が高ければ高いほど良いのではなく、むしろ、真ん中の50点から離れているところを受検者の「長所」であると捉えます。たとえば、主体性の点数が20点だとしても、それは、「控えめで、でしゃばらない」という長所になります。ですから、学生には、「点数が高い特性だけでなく、低い特性も長所であり、そこを伸ばそう」というアドバイスを送ります。

 また、「VSAT」は、埼玉大生の平均像だけではなく、キャリア支援のプログラムにご協力いただいている地元企業の社員の方々にも受検してもらっているので、その企業に勤める「社会人の平均像」も分かります。つまり、学生は、他の学生や社会人と比較して、自分がどういった長所を持っているのかを把握できるのです。

「VSAT(長所発見テスト)」は、 埼玉大学と Human Science Plow 社が共同開発した、自分の長所を伸ばし、成長を確認するためのテスト。学生は、自分の強みを発揮できる場所や仕事を選ぶための参考として活用できる。「VSAT(長所発見テスト)」は、 埼玉大学と Human Science Plow 社が共同開発した、自分の長所を伸ばし、成長を確認するためのテスト。学生は、自分の強みを発揮できる場所や仕事を選ぶための参考として活用できる。
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 VSATは、入学式のガイダンスで1年生(=新入生)に1回目の受検を促し、その2年後となる3年生の就職ガイダンス時に2回目の受検を促している。いまでは、埼玉大学の半数以上の学生が最低1回は受検しているという。その成果はどのように表れているのだろう。

石阪 「VSAT」の導入によって、「キャリア科目」を受講する学生が明らかに増えています。キャリア科目にある「課題解決型プログラム」は定員100名のところ、3倍以上の応募がありますし、「課題解決型長期インターンシップ」は1社30名の枠に200名近くが応募したりします。また、入学時に「VSAT」を受検した学生からは、「VSAT」の結果をアルバイトやサークル活動に利用しているという声も聞きます。自分の「長所」を知ることは、就活に限らず、学生生活のいろいろな場面で役立つのです。

 今回、私(古井)も「VSAT」を受検したが、設問にはスムーズに答えることができ、回答時に頭をそれほど悩ますことはなかった。また、記入設問もあって、クイズを解くような楽しさも感じた。テストの結果、意外な自分の長所に気づくことができた。それらの長所は、社会人経験があってのものとも考えられ、学生時代に「VSAT」を受けていれば、違った長所に気づいていたと思う。