産学連携が、地元の企業と学生を元気にしていく
大学のキャリアセンターは学生たちを「就職」というかたちで社会に送り出す役割を担っている。また、国公立大学は、それぞれの地域において、地元の発展に貢献する人材育成も重要なミッションである――そうした視点から、石阪教授が、採用活動を行う企業に望むことを尋ねた。
石阪 毎年、就職していく学生たちを見ていて感じるのは、大学にできることは限られているということです。ですから、学生を受け入れる企業のみなさんが、彼ら彼女たちの長所や強みをさらに伸ばしていただくことを期待しています。ぜひ、Z世代と呼ばれる学生たちの特徴や考え方を理解していただきたい。たとえば、福利厚生を気にすること、在宅勤務の可否などワーキングスタイルに高い関心があること――「そうしたことは仕事の本質ではない」と切り捨てるのではなく、目線を少し下げてみてください。学生の気持ちに寄り添えている企業が採用活動をうまく行えているのは明らかです。
いまどきの学生たちの特徴や考え方を理解するためのきっかけとして、近隣の大学のキャリア支援プログラムに参加してみるのはかいかがでしょう? 埼玉大学の場合、キャリア科目の授業に多くの企業をお呼びしています。その場で、企業の方が自社の採用パンフレットを学生たちに見せて、「どこがよくないかを教えて」と言うと、「文章が多過ぎる」「写真に映っている人の表情が暗い」「作業着がダサい」「横文字ばかりで意味が分からない」など、本音の感想が出てきます。そうした声や反応からも、昨今の学生たちが何を考えているのか、どんなことに関心があるのかを知ることができます。
これまで、多くの大学では理系学部を中心に、研究を通じた産学連携が行われてきた。しかし、「人材育成の面での産学連携は遅れている」と石阪教授は指摘する。企業の人事担当者にとっては、毎年の採用予定を達成することが重要だが、それと同時に、人材育成のための中長期的な取り組みが欠かせない。その手立てとして、地域の大学と企業の連携が大きな意味を持つ。
石阪 私たちは産学連携での人材育成がとても大切だと考えていますが、企業の方々に聞くと、「敷居が高い」「採用に直結しない」といった声があがります。大学側の姿勢も見直すべきかもしれません。
一方で、1・2年生向けのキャリア支援プログラムに対して、「採用に直結するわけではないけれど、面白そうだから一緒にやりましょう」とおっしゃっていただける企業もあります。こうして、何年か続けてプログラムを行っていると、これまで全く採用のなかったその企業に就職する学生が出てきたりします。おそらく、プログラムを通じて、企業への理解が深まり、社員の方と接するなかで、自分の長所を生かせる環境があると気づくのでしょう。
石阪教授は、「まちづくり」といった地域社会学が専門で、「まちづくりは人づくり」をモットーにしている。それぞれの地域で人材を育て、その人材が地域に定着して、地域が良くなっていく。人材を育てることと地域が活性化することは紐づいているのだ。
石阪 重要なのは「地域」という視点です。日本には大都市圏ではないエリアがたくさんあります。そうしたエリアの大学を卒業した学生が、大都市圏、特に東京都心に吸い上げられているという状況は日本の未来のためにも健全だとは言えません。埼玉大学は、学生一人ひとりの長所を伸ばしながら、もっともっと、地域に根づいた企業の魅力を学生たちに伝え、企業と学生それぞれの「長所」のマッチングを進めていきます。