「亡くなった母を思い出して眠れない」「夫が亡くなり、何もする気が起こらなくなった」「夫と散歩していた道はつらくて通れない」――。こんな別れの痛みや苦しみを癒やすのが、悲しみ(グリーフ)に対処し、再び歩き出すためのヒントを贈るという「グリーフケア」だ。大切な人を失ったとき、人はどのように前を向いていくのだろうか。本稿は、坂口幸弘・赤田ちづる著『もう会えない人を思う夜に 大切な人と死別したあなたに伝えたいグリーフケア28のこと』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)の一部を抜粋・編集したものです。
大切な人が亡くなると
家にこもりがちになる
Hint 体をいたわって
体からの声に耳をかたむける
大切な人を亡くしてから、外に出かける気分にならず、家にこもりがちになることがあります。体がなんだか重く感じ、何をするのもわずらわしく思ってしまいます。
「朝、起きるのがとても大変なんです」と話してくれたのは、大腸がんで父親を亡くした50代の女性です。父親の長い闘病生活を支え続け、最後の3年間は自宅で介護をしていました。
「外に出る気分にならず、ベッドからなかなか起き上がることができなくて……。私はどうしてしまったのでしょうか」
こう悩まれていました。
夫を失った60代の女性も同様のお悩みがあるようでした。
次のようにご自身の毎日を語られていました。
「夫が亡くなって、何もする気が起こらなくなりました。一日中、パジャマのままで過ごす日もあるんです。自分だけのために洗濯や掃除をすることも、食事の用意をすることも、すべてが無意味に思えてしまうのです」
おふたりのように人に会うのがとてもめんどうに感じられることは、よくあることかもしれません。
人や社会との接触を避けて、居心地のよい空間にこもることは、一時的にストレスを回避し、心の安定を保つことに役立つことがあります。
しかし長期間になると、日常生活に支障が出てきたり、心身に悪影響を及ぼしたりする可能性もあります。
とくに高齢者の場合には、体を動かさず、家にこもりきりになると、認知症や寝たきりにつながりかねません。
夫と散歩していた道は
つらくて通ることができない
外に出かける気になれないときには、少なくとも太陽の光を感じるだけでも、気分が変わることがあります。
朝起きて、カーテンを開けて、家の中でもかまいませんので、少し体を動かしてみるのがいいと思います。
先ほどの父親を看取られた50代の女性は、死別から半年ほどたった頃、オンラインのヨガ教室に入会し、朝6時からのヨガを日課にされるようになりました。
「これまでは、目覚めていてもベッドから起き上がることが難しかったのですが、ヨガに参加するようになってからは起き上がれるようになりました。家の中ですが、少し体を動かすことで、朝ごはんをおいしく食べられるようにもなりました」