父親を肝臓がんで亡くした女性、ひとり息子の理不尽な死に直面した母……大切な人を失った悲しみを癒やす「グリーフケア」を実践する著者が、過去に向き合ったエピソードとともに、再び歩き出すためのヒントを授ける。本稿は、坂口幸弘・赤田ちづる著『もう会えない人を思う夜に 大切な人と死別したあなたに伝えたいグリーフケア28のこと』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)の一部を抜粋・編集したものです。
そうだ、お父さんと最後に旅行した
街へ行ってみよう
Hint 気分転換にどこかへ
いつもと違うことに目を向ける
大切な人が亡くなった日から、まるで時間が止まってしまったかのように感じてしまうことがあります。
生活することに精一杯で、何もやる気が起きず、ほかのことにはなかなか目が向かない……。だれとも会いたくなくて、なるべく家から外に出ないようにしている人もいます。
とはいえ、人によっては、死別から時間がたつにつれて「ちょっと外に出てみようかな」という気持ちになることがあります。大切な人を失って見えなくなっていたことに、少しずつ目が向けられるようにもなっていったりします。
体調が悪くなければ、ふだんの生活から少し離れて、いつもとは違う時間を過ごしてみてはいかがでしょうか。
日々の習慣や決めごとにとらわれない時間を過ごすことは大切です。
父親を肝臓がんで亡くした30代の女性の場合です。死別してから仕事以外は自宅にこもりがちだったのですが、半年が過ぎた頃、ふと思い立って、父親との最後の旅行で訪れた場所に再び足を運んだそうです。
「焼き物の好きだった父に誘われて歩いた街を、ひとりでゆっくり歩いてきたんです。父と娘のふたり旅はあれが最初で最後でした」
そう話してくれました。旅先では、こんなことに気づいたそうです。
「父が亡くなったのは秋だったのですが、外はもう春の日差しで驚きました。自宅と会社の往復でまったく気がつきませんでした。今年の冬はどこへ行っちゃったんですかね……。
父と歩いた坂道を歩いて、季節が変わっていたことに気がついて、ようやく一歩進めたような気がします」
外に出かけて、自然にふれてみるのもいいでしょう。自然や季節のうつろいを感じられます。
自然の中に身を置くことで、いつもとは違うものに目を向けることができるようになるかもしれません。
四国八十八箇所の遍路修行で
60代女性が得られたもの
空の広さや、やわらかな日差し、心地よい風、道ばたに咲く花や土の匂い、川のせせらぎ、虫の声などに心が寄せられるようになるでしょう。そうした自然の情景が、張りつめた気持ちを優しくつつんでくれます。
お寺や神社、教会などへ出かけてみたり、信仰の対象となるような場所を訪ねてみたりする人もいます。
四国八十八箇所を巡礼、いわゆるお遍路をされた人の話もときどき耳にします。
ご主人を亡くしてひとりで遍路修行に出られた60代の女性は次のように話してくれました。