境界知能の子どもにとっては、このレベルの問題が難しい。彼らは、知的障害にはあたらないため、他の子どもと同じ学校に入り、とくに配慮もされないまま教育を受けることも珍しくありません。

 しかし、その結果として、いろいろな問題が生じます。怠け者あつかいされ、愚鈍だとからかわれるのです。本当は怠けているわけではないのですが、理解してもらえません。親ですら彼らの特性を理解してくれないこともあります。そういうことが重なり、彼らは孤立していきます。

 社会的に疎外されていき、犯罪に手を染めてしまう子どももでてきます。なぜ自分の行為が駄目だと言われるのか、なぜ相手が怒っているのかわからないがゆえに、トラブルを引き起こすこともあるからです。

 宮口さんは精神科医として医療少年院で働き、そうした少年、少女と向き合ってきました。その成果としてコグトレ(認知機能強化トレーニング)という独自のトレーニング方法を見出したそうです。

『人生の壁』書影『人生の壁』(養老孟司、新潮新書)

 こういう子どもを大人たちが見つけて、対応を丁寧に考えてあげることは大切でしょう。何とか勉強についていけるように助けてあげることも必要です。社会のルールなども丁寧に教える必要があります。

 ともすれば、世の中は生来IQの高い子どもにばかり注目しがちです。しかし、そういう子どもは勝手に成長して、自分で何かやりたいこと、やるべきことを見つけることもできます。適度に放っておいたほうがいい場合もあるかもしれません。

 根本的なことを言えば、やる気のない者にいくら教えても無駄、ということは教育に関わった人なら誰でもわかっていることです。勉強に限らず、肉体労働だって同じで、やる気のない者にやらせたら大変でしょう。要はモチベーションのない子どもに、あれこれ働きかけてもあまり意味がないのです。

 ゲーテは、「学ぶには時がある」と言いました。時が来ていないのに学ばせようとしても、仕方がないということです。