「お受験」教育は勧められない
ヒトの脳のつくりは変わっていない

 一方で、幼い時から「お受験」に代表されるような類の教育をすることは決して勧められない、というのが小泉さんの話でした。

 一時期から流行するようになったものに、早期英才教育やコンピュータのプログラミング教育などがあります。こうしたものは、実感として私もあまり良いものだと思っていません。

 こう言うとまた「時代が違うよ」と思う方もいることでしょう。

 しかし、時代が変わってもヒトの脳そのもののつくりは変わっていないのです。AI(人工知能)の急速な進化に伴って、脳が進化するなどということはありえません。したがって、人間の成長もそんなに変わるはずがありません。

 この点を頭に入れておかないと、科学技術の進歩に合わせて人間のほうを変えようという本末転倒の発想になってしまいます。

 冗談ではなく、技術によってスーパーマンのような「超人」を作ろうとしかねないのです。ヒューマンエンハンスメント(人間強化)などという試みを真剣にやっている人たちもいます。遺伝子工学などの科学技術を用いて、人体そのものをバージョンアップしてしまおうということですから、まるでアメコミ映画です。しかしこれには何か無理があると思うのが普通の感覚でしょう。

 人間の能力について考えるのならば、普通の人を超人にするなどということに知恵を使うよりも、もっと大切な問題があります。

「ケーキの切れない非行少年」をどう考えるか
IQの高い子どもは勝手に成長する

 『ケーキの切れない非行少年たち』(新潮新書)の著者、宮口幸治さんは「境界知能」の子どもに関する問題提起をしています。世の中には一定数、知的障害とまではいえないけれども、IQが低い人が存在しています。IQでいえば、七〇~八四くらいだそうです。この人たちは境界知能の持ち主とされています。

 本のタイトルの由来は、宮口さんが医療少年院で出会った子どもたちです。宮口さんは児童精神科医として精神科病院や医療少年院に長年、勤務した経験があります。

 彼らに「丸いケーキを三等分にしてください」というテスト問題を出しました。紙には円が描いてある。その円の中心から放射状に直線を引いて三等分すれば正解です。

 ところが、一定数の子どもはこれができずに、縦に二本線を引いてしまったり、とりあえず半分にしたあとで困ってしまい、苦し紛れに横線を引いたりするというのです。