「おじさん・おばさん」になる前に絶対やっておくべきこと、養老孟司が「一人は気楽」という人に異論を唱えるワケ写真はイメージです Photo:PIXTA

人生相談において「とらわれない、偏らない、こだわらない」という答えに終始するという養老孟司氏。そんな養老氏が「中年になるまでやったほうがいいことはなんですか」という相談に、ひとつの答えを出した。『バカの壁』(新潮新書)などの「壁」シリーズで累計700万部超えの著者が語る人生の本質とは。本稿は、養老孟司『人生の壁』(新潮新書)を一部抜粋・編集したものです。

人生相談を考えたことがない
聞いても仕方がない

 この頃は人生相談に乗る仕事もやっています。他の仕事と同様、頼まれたのでやっているだけで、私自身は誰かにその種の相談をしたことがありません。聞いても仕方がないと思っているからです。

 ただ、さまざまな相談に乗ることで、世の中のことを知ることはできるように思います。新聞を読むよりも、個々の悩みを聞くほうがよほど社会の現状がわかるのです。

 その意味では、悩んでいる方には申し訳ないのだけれども、相談を受ける面白さというものがあるのは事実です。

 私の答えが悩みの解決に直接役立つとは思いませんが、自分とは別の考えを知ることには意味があるのでしょう。ものの見方はさまざまだということに気づいてくれるといいかな、とは思います。

 自分自身の人生で壁にぶつかったことがあるかといえば、実はあまりそういうおぼえがありません。悩んで夜も眠れないとか、胃が痛くてたまらないといった記憶がほとんどないのです。

 お前は運が良かったのだ、と言われれば返す言葉もありません。ただ、どちらかといえば、乗り越えるよりも避けることを心がけてきたからではないか、という気もします。面倒なことになるような状況に身を置かないようにした、と言ってもいいでしょう。

 もちろん八〇年も生きていればいろいろな災難には見舞われてきました。大きかったのは、母親の借金問題です。友人の保証人になったとかで、かなりの金額を背負うことになった。大学生の頃でしたが、これは親戚が走り回って何とかしてくれました。

 面倒は避けようとしても、ある程度は降ってきます。そうなったときに逃げるのはいいことではありません。自分のせいではないけれども、引き受けなければいけないことはあるのです。そういう時に逃げると、あとでツケが回るというのはこれまでにも言ってきたことです。