「フェミニストは?」とわたしが続ける。マークのような人たちは、白人の出生率低下をフェミニズムのせいにすることも少なくない。

「伝統的な家族への攻撃」一瞬の間があくも即座に答える。「女性を間違ったものに変えるか、もしくは幸せにしないことが目的だ」

 ごくりと唾を飲み込むと、わたしは次の言葉を必死に探す。

「ジョー・バイデン」少し遅れて言う。

 愉快そうな声ですぐに答えが返ってくる。「自分が何をしているかわかってない操り人形の大統領さ。たぶん認知症になってるから、アメリカ史上最大の反白人的で反伝統的な政策を進めちゃうだろうよ」

書影『ゴーイング・メインストリーム 過激主義が主流になる日』(左右社)『ゴーイング・メインストリーム 過激主義が主流になる日』(左右社)
ユリア・エブナー著、西川美樹訳

 ならこれはどうだろう……「コロナは?」

 自信たっぷりの声でマークが断言する。「恐怖を広め、世界じゅうの人の権利を奪う残忍な新法を制定するのに利用される、偽のパンデミックだ」

「あとひとつだけ」とわたし。「気候変動は?」

 またもマークの答えに躊躇はない。「税金を引き上げて、白人に罪悪感を植えつけ、子どもを生ませないために捏造された問題だ。環境に対する真の脅威は気候変動ではなくて人口増大だからね」

 フェミニズムであれ、コロナであれ、気候変動であれ、何もかもをマークが「白人のジェノサイド」と称するものに結びつけるのには目を瞠(みは)る。彼は、急進的発想がいかに互いに結びつき、互いを煽るかを教えてくれる格好の見本だ。白人ナショナリズムのような過激主義の世界観をひとつでも受け入れたら、人は自らが信じる陰謀論にさらに幾重もの意味を足し、反フェミニストや気候変動否定論、反ワクチンなどのイデオロギーをもとりこみかねない。