自ら行動する「自律型人財」になるためには…
永田 新入社員の経験学習を回すために、エルダーやOJTリーダーはどのように関わっていくのでしょうか? もう少し詳しく教えていただけますか?
髙木 エルダーは、まず、「新人育成オリエンテーション」に参加して、仕事の進め方の指導などを学びます。その研修には、OJTリーダー、所属先の係長も出席します。エルダーは新入社員にとって、兄や姉のような近しい存在ですが、その上には人財育成の実行者である係長もいて、エルダーの相談役のような役割を果たしています。エルダーだけが指導の責任を負うのではなく、係全体で人材育成方法を共有するかたちになっています。
エルダーが新入社員とどう関わるかは、時期によっても変わってきます。導入期(入社年度の5月〜7月)は、新入社員は学生から社会人になりたてなので、とても不安ですよね。その不安を取り除いてあげるために、まず、「『仲間になる』という意識を大事にしてください」とエルダーには伝えています。その信頼関係が土台にないと、経験しても、きちんと振り返ることができません。
育成前期(入社年度の8月〜11月)は、新入社員に部分的に仕事を任せていくのですが、この時期のエルダーは、新入社員ができているかどうかを見ながらサポートする立ち位置です。指導の中では、ティーチングが多めに活用されます。育成後期(入社年度の12月〜3月)になると、仕事を「任せる」から「任せきる」に移行していきます。今度はティーチングよりもコーチングが多くなり、任せきった仕事がどうだったかの振り返りを行います。経験学習を回すための全体の流れはこのようになっています。加えて、「心理的安全性」があることが重要です。それがないと、自分の意見を言ったり、失敗談を話したりすることもできなくなるので、経験学習がそもそも回らなくなってしまうでしょう。
永田 制度の中で、先ほどの話にあった「仕事の意味づけ」は、どのあたりでなされるのでしょうか?
髙木 導入期は、エルダーから新入社員に渡す仕事のほとんどがルーティンワークになります。いわゆる雑事が多いので、新入社員にとっては、「医療に貢献しようと思って入社したのに、なんでこんな仕事を?」と疑問を持ってしまうこともあるのですが、その段階で、「この仕事が何につながっているのか」「あなたにとって、どういう意味があるのか」をきちんと説明してから、ルーティンワークの説明をするようにエルダーには伝えています。そうすることで、新入社員は言われたからやるのではなく、自ら行動する「自律型人財」へと成長できるのではないでしょうか。
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永田 ルーティンワークを行うときこそ、仕事の意味づけが必要なのですね。その後、仕事を「任せる」から「任せきる」になるとコーチングが多くなってくるとのことでしたが、それはリフレクションを支援しているようなかたちになるのでしょうか?
髙木 はい。「任せきる」の段階では、仕事のプロセスも含めて新入社員に考えさせるようにしていますので、振り返りをしたときに気づいたことを次回に取り入れるよう促すなど、リフレクションがとても多くなっていますね。
永田 考えさせないと、「自律型人財」にはならないですよね。「心理的安全性」「仕事の意味づけ」「自分で考えさせる」が、経験学習を回すための3点セットといえるでしょうか?
髙木 そうですね。あとは、「PDCA」でいうと、「DO」の部分が強化できたらと思っています。「DLL(*)」というOJT診断システムを使い、年に2回、エルダーに診断を受けてもらっているのですが、「DO」の部分が弱いという結果が出ていまして……。いま、永田さんがおっしゃった3つについては行えていると思うのですが、オリエンテーションを終えた後、仕事を任せている間も見守って声かけをする、必要なら介入するなどして、日々、小さなPDCAを回していけるとよいと考えています。
永田 なるほど。「心理的安全性」「仕事の意味づけ」「自分で考えさせる」に加えて、「見守る」――この4つが経験学習をうまく回すためのポイントといえそうですね。
*「DLL」は、OJTトレーナーの特徴とそのタイプを分類し、トレーナー各人が部下や後輩を指導する上での強み弱みを可視化するOJT診断システム。