米国の国旗と民衆写真はイメージです Photo:PIXTA

先の大統領選で返り咲きを果たしたトランプ大統領。その支持基盤の中で、とりわけ筆者が注目したのが若者たちの動向だ。有力な若手保守派団体「ターニング・ポイント・USA」の3000人集会に潜入し、その熱気をリポートする。本稿は、及川 順『引き裂かれるアメリカ トランプをめぐるZ世代の闘争』(集英社新書)の一部を抜粋・編集したものです。

ハーバード大卒よりも
配管工の方が優れている?

「ターニング・ポイント・USA」(編集部注/アリゾナ州フェニックスに本部を置く保守系のNPO団体)の攻撃の矛先は、愛国心あるいはキリスト教的価値観という観点での「敵」以外にも向けられる。今の社会秩序を維持することで既得権益を享受していると彼らが考える人々、わかりやすい言葉で言えば「勝ち組」だ。

 名門校と呼ばれる大学を出ることが、社会的成功への近道と考えられている点は、アメリカも日本も変わらない。ロサンゼルスのある公立小学校の講堂には、卒業生が進学したと思われる各有名大学のペナントが壁に数多く貼られていた。

 しかし、アメリカの大学は学費が高い。加えて、今のアメリカでは、学部卒では不十分で、大学院で修士号を取得することが、良い就職先を見つけるための条件になっている傾向が強まっているとも感じる。

 競争がさらに激化する中で、代表的な「勝ち組」に位置づけられるのが、アイビーリーグと呼ばれる著名な大学に進学した若者たちだ。

 しかし、「ターニング・ポイント・USA」にとっては、既存の秩序下での「勝ち組」は憎むべき相手だ。親のすねをかじって、名門大学に進学したような人間は、攻撃の対象だ。カーク氏は演説の途中、保守の価値観を説明するくだりで、こんな表現も使ってみせた。

「私は、ハーバード大学やイェール大学を卒業した人よりも、配管工の人たちの方がより優れた賢明さを持っていると思っています」

 ちなみにカーク氏(編集部注/「ターニング・ポイント・USA」の創設者、チャーリー・カーク)は大学に入学はしたが、卒業はしていない。勉強よりも、保守の活動家として生きることに意味を見出したのだろう。大学の卒業証書には価値がないということだし、確かにカーク氏ほどの才能があれば、学歴は関係ない。

 ただ、その手法は、トランプ大統領が、例えば、高校までしか出ていない労働者たちを扇動し、熱狂させ、さらに自分への投票に向かわせる手法とも重なった。

将来有望な若者が
保守派の集会に来る理由

 一方で興味深いのは、「ターニング・ポイント・USA」の集会に来ている人の多くは、大学生や高校生だ。政治的あるいは思想的な色彩が濃い集会にわざわざ参加しに来るのだから、特に社会に対する意識が高い若者たちとも言える。名門大学に通っている人もいるだろうし、高校を卒業した後は、それこそアイビーリーグに進学する人もいるだろう。

 高学歴の意味を否定するカーク氏の演説に、彼らが熱狂するのはなぜか。