角川氏の戦略は、単に本を売るだけでなく、新しい形で本の魅力を伝え、出版業界全体を活性化させることを目的としている。この取り組みは、デジタル化の進む時代においても出版文化を守り抜こうとする彼の情熱の表れだ。
「編集者が良い本を作るだけでは不十分です。読者に届けて売れることが前提。それができないなら編集者の意味がありません」。角川氏は編集者に求められる責任についてこう述べる。
実際に成功を収めた例として、髙田郁の『みをつくし料理帖』シリーズを挙げる。「この作品では、時代小説の『刀』という要素を『包丁』に置き換えました。これによって女性読者層をターゲットにでき、大成功を収めることができました」
彼はさらに、編集者が持つべき視点として「売る力」を重視する。「本を売るという行為は文化を広めることに他なりません。編集者はその意識をもっと強く持つべきです」
本屋は文化の灯が残る最後の場所
それを守るのが「自分の最後の仕事」
角川氏が特に感銘を受けた本として挙げるのが、『シリアの秘密図書館――瓦礫から取り出した本で図書館を作った人々』だ。「戦場の中で人々が紙の本に救われる。その話を読んだとき、私は改めて本が持つ力を確信しました」
この本を重版に導いた背景についてもこう語る。「本を必要とする人に届けることが、私たち出版業界の使命です。この本が再び多くの人々の手に渡ることで、紙の本の力を伝えたいと考えました」
「本屋は文化の灯台であり、それが消えれば日本の文化が失われます。本屋を守ることは、日本の文化を守ることそのものです」と角川氏。「本屋を守ることが私の最後の仕事。すべての人に本を届けるために、できることを最後までやり抜きます」
角川氏の取り組みは、単なるビジネスではなく、文化と未来への熱い思いに根ざしている。彼の活動は、書店だけでなく、日本の文化全体を支える大きな力となっている。
富山県生まれ。編集者、実業家、映画監督、俳人。株式会社角川春樹事務所代表取締役社長。角川書店の2代目社長としてKADOKAWAや角川映画の基盤を築き、『犬神家の一族』をはじめとする70作以上の映画を製作。監督としても『汚れた英雄』『天と地と』などを手がけた。現在は、書店と活字文化を守る活動に力を入れている。