レアメタルの中国依存から抜け出すのは難しい

 しかし、今後の展開を楽観するのは時期尚早だ。トランプ大統領は、「中国は米国との貿易で得た資金で軍備を拡張している」と批判した。また、ルビオ国務長官は中国を「最も危険な敵」と断言した。米国にとって、対中関税は覇権国の地位を守るため必要な方策の一つであることは間違いない。

 1月下旬、商務長官候補のラトニック氏は、中国のディープシーク社が米国からの輸出規制を迂回してAIモデルを開発したとの見方を示した。また、「関税に裏打ちされていない輸出規制は、もぐらたたきのようだ」と発言。中国のAIチップやデータの不正入手を批判した。

 関税をかけて、世界の有力企業に米国での製品製造を迫るトランプ政権の方針は明確だ。一方、中国は米国の圧力に黙っていないだろう。中国経済は今、不動産バブルが崩壊して不況が長引いている。雇用・所得環境の悪化から、市民を狙った無差別攻撃事件が増えて社会不安も高まっているようだ。

 中国政府は一党独裁の政治基盤を維持するため、米国の対中締め付け策に対抗せざるを得ないだろう。2月4日に中国政府が発令した関税以外の対抗措置を見てみよう。

 まず、グーグルの独占禁止法違反調査というのがある。グーグルに対する調査開始は、米国企業全般に対する警告とも解釈できる。仮に、テスラ車の利用が中国で制限されれば、マスク氏がトランプ氏に対中政策を修正するよう求め、トランプ政権に関係する人物間の対立が表面化する懸念がある。

 そして、重要金属(タングステン、テルル、モリブデン、ビスマス、インジウム)の輸出規制もある。中国は、希少金属(レアメタル)と希土類(レアアース)生産量で世界トップだ。いずれも、半導体や車載用バッテリー、軍事品の部材として重要性が高まっている。米国はレアメタルの中国依存の低減に取り組んでいるが、脱中国の実現には時間がかかる。

 他には、アパレルブランド「カルバン・クライン」運営会社のPVHコープ、バイオテクノロジー企業のイルミナを、「信頼できない企業リスト」に掲載している。

 中国は、米国の強硬姿勢によっては、重要鉱物の供給を絞るなどと警告したといえる。米中の関税掛け合いの初動は静かなものに見えたが、それが続くと楽観するのは適切ではないだろう。