エヌビディアが標的になれば急激な円高になる恐れ
2期目のトランプ政権の閣僚の顔触れを見ると、同氏に忠誠を誓う人物が多い。「米国ファースト」の実現を目指して、追加関税、半導体やAI関連知的財産の輸出規制、人権問題の制裁で中国を締め付けることだろう。貿易赤字を削減して米国を世界一の製造大国にするため、同盟国の自動車に関税をかける恐れもある。
その一方、中国にとって対米対抗措置の切り札は、画像処理半導体(GPU)世界最大手のエヌビディアになるだろう。24年8~10月期、エヌビディアは売上高の約15%を中国で得ている。
今のところ規制もあって、エヌビディアはダウングレード版チップを供給しているが、中国は重要市場であることは確かだ。エヌビディアのチップ調達リスクに備えて、中国政府はAIや半導体産業の育成を急いでいるという。食料や天然ガスを備蓄しているのも、中国が米国との貿易戦争に向けて準備していることを示唆する。
エヌビディアは、AI時代の幕開けを知らしめたスター企業だ。AI分野の成長期待は上昇しており、わが国では素材、電力インフラ、情報システム関連分野の業績が拡大基調にある。
中国が対米報復措置として、エヌビディアを標的にすることは十分考えられる。それが現実になれば、世界全体でAI分野の成長期待は低下し、世界的に株価が下落するリスクが強くなる。「逆資産効果」で米国の個人消費は減少し、わが国を初め世界経済の成長は下振れするだろう。
外国為替市場では、リスク削減に動く投資家が増え、円キャリートレードの巻き戻しから円が急上昇するかもしれない。急激な円高は、日本企業に業績悪化をもたらし、主要投資家のマインドを冷え込ませる恐れもある。
米中貿易戦争が本格化すれば、中国の景気悪化も長引くだろう。トランプ政権の関税率引き上げによる影響で米国のインフレが再燃し、世界的に金利上昇圧力がかかる可能性もある。
トランプ政権の政策リスクに対応するために、中国との関係を修復しようとする国や地域が増えれば、世界経済のデカップリング(分断)が鮮明化する展開も考えられる。
いずれの展開も、世界経済の下振れ要因になる。トランプ政権に世界経済、金融市場が振り回され不安定化する懸念は引き続きある。