たとえば財政規模を見よう。収入額で見ると、最高の東京大学は最下位の鹿屋体育大学の128倍である(大学改革支援・学位授与機構 2023)(注6)。

 これには学部構成の相違や附属病院の有無など、むろん相応の理由はある。だが全般的に、トップクラスの有力大学とそれ以外の大学との間で財政面の二極化が進んでいるのは、よく指摘されるところである。

 研究力でもしかりである。科学研究費補助金の採択状況は研究力の1つの尺度とされるが、採択件数で上位の大学を見ると、東大、京大、阪大と有力大学がずらりと顔をそろえる(日本学術振興会2023)(注7)。実際、「日本の大学の格差の傾斜は、世界の先進国中でダントツに激しい」(豊田2019:150)(注8)のである。

 国立大学には、非公式なものながら、「旧帝大」や「旧六」などのグループ分けがある。来歴に共通点があるという理由からだが、同時に規模や研究力の点で同等クラスの大学をくくった呼び名でもある。これらのグループのメンバー構成は固定的で、垣根を飛び越して他のグループに入ったという話は聞かない。

 この格差はさらに拡大する傾向が見られる。近年の大型研究助成プログラムを見ると、結果としては、採択されているのは旧帝大を中心に有力研究大学が多い。「10兆円ファンド」でも、そもそも申請のハードルが高く設定されたこともあって、初年度の申請校はこうした有力大学ばかりであった。

 さらに、格差は長期的に固定する懸念がある。「10兆円ファンド」事業が見込む助成期間は何と25年である。一握りの大学がこれだけ長期にわたって数百億円という巨額の助成を受けつづけるのである。

 巨大な格差があるなかで優劣の物差しを一元化すれば、これは勝負にならない。筆者たちのインタビュー調査で、ある地方大学の理事が述べた言葉が耳に残っている。「競争が今日避けられないことは承知している。ただ、東大と同じ土俵に上げるのだけは勘弁してほしい」。

注6 大学改革支援・学位授与機構,2023,『国立大学法人の財務』令和4年度版

注7 日本学術振興会,2023,「科研費の配分結果 令和5(2023)年度1回目」,https://www.jsps.go.jp/j-grantsinaid/27_kdata/kohyo/r05_01.html,[2024年6月3日]

注8 豊田長康,2019,『科学立国の危機失速する日本の研究力』東洋経済新報社