トランプの落日が始まる「その日」とは

 翻って米国は、キリスト教国の中でも、特にプロテスタント色が強い国だ。プロテスタントの大きな特徴は、聖職者を介さず直接聖書を理解して個人が信仰することを重視している。

 17世紀に英国から米国に渡った清教徒(ピューリタン)は、上陸前に契約書にサインをして、「自由な市民として公正な法律の下に生活する」ことを誓ったくらいだ。米国では、個人主義的で自由を重視する価値観が強い背景は、こういったところにある。

 先の大統領選では、インフレに苦しむ労働者や不法移民対策に憤る国民の声が、トランプ氏を大統領に押し上げた。そしてトランプ氏は就任早々、関税や人々の多様性、移民に関して、政府のリストラなどの政策を矢継ぎ早に出している。

 果たしてこれらの政策が本当に実行されるのかは、まだ不透明だ。大統領権限は強いとはいえ、米国には合衆国憲法をはじめ各州の法律などもある。言うまでもなく、ロシアとは随分と前提が違う。

 今はトランプ氏の強権的な言動が目立つが、歴史的な根っこのある強権と、トランプの妄想による強権では大きく違う。そもそも、個人主義で自由を重んじる米国には、強権的な指導者を求める歴史的、社会的風土はない。自由な判断で、大統領にノーを突き付けることは、いつだって可能だ。

 関税政策によってインフレが進んだり、移民が減ってエッセンシャルワーカーが支える産業に支障が出たりすると、「トランプの政策は失敗だ」との声が出てくるだろう。この辺りから、トランプ氏の落日が始まるのではないか。トランプ氏がここまで鼻息荒く世界を揺るがせることができる期間は意外と短いかもしれない。

トランプにノーベル平和賞?「妄想」を手玉にとるプーチンの打算とは【元外交官が解説】Photo:SOPA Images/gettyimages

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