じゃ、「写楽って誰?」問題はこれで解決かっていうとそうでもないんですね。例えば、1人で描く油絵みたいに「ひまわりを描いたのは誰?答えゴッホ」、ハイ終わり、じゃすまないんですよ。
浮世絵140点はどうやって作られた?
絵師・彫師・摺師が支えた大量生産
なぜって?浮世絵は、ただでさえ人手がかかるんです。絵を描く浮世絵師だけじゃなくて、それをもとに細かーく木版を彫る彫師、その木版をもとに1枚1枚ズレないように丁寧に重ね摺りしていく摺師が最低限必要です。
それにわずか10カ月で140点以上って、あの世界ではそれだけで相当異常な数らしいんですよ。なんせ1点につき最大で30くらい、絶対にズレないように1色ずつ色を重ねていくんです。それを何千枚も摺るんですから、摺師なんて何人いればいいんだか。
実際に描いて彫って摺って売ってた作り手にとっては、浮世絵・錦絵はアートというよりも、量産して売る売り物なんですね。あるいはポップアートとも言うんでしょうけど。
それに、歌舞伎の売りは役者です。もちろん、演目と役柄が好きで舞台を観たり、役者絵を買ったりする人もいるんでしょうけど、芸能関係のお客さんのリピーターは、ほぼ芸能人本人のファン、歌舞伎なら役者のファンですよね。ですから、売り物はまず役者に絞ったものじゃなきゃならないんです。
で、絶対に売れるものを大量生産するには、これだ!とわかってるもののパターン化ですよ。役者絵のような版画なら、絵柄のパターン化です。
写楽の描いた47人の役者
その顔はどうパターン化されたのか?
もちろん、顔もポーズも衣装も何もかもおんなじじゃ、ハンコみたいですから話になりません。何をパターン化したかというと、顔なんです、歌舞伎役者の顔。デフォルメした役者の顔を、何度も何度もリピートできるようにパターン化したんです。同じ役者が違う演目を演じた役者絵でも、顔の描き方のパターンだけはまったく同じ。これを徹底的にやった。
そうしたら、めちゃくちゃデフォルメされた、見ようによっちゃグロテスクなくらいその役者の特徴をとらえた図柄になっちゃった。これ、写真みたいにリアルに似せて描くのとは全然違うアプローチですからね。ものまねといっしょですよ。