よりよい影響力を行使するには
相手の内なる「動機」を知るべし

 組織内の誰が重要な決定権を持っているのかを察知する力は組織感覚力で、その人物の考えを変えるにはどうするのが一番いいかを知る力は影響力だ。ダーシーがナイキで取った行動には、この2つの能力がはっきり現れている。

 人を動かすための必勝法の1つが、相手の奥深い「動機」に訴えかけることだ。ダン(編集部注/著者の1人であるダニエル・ゴールマン)の大学院の恩師デイヴィッド・マクレランドは、動機を次のカテゴリーに分類した。

「達成動機」[高い目標を達成しようとする動機]、
「親和動機」[人と友好的な関係を維持しようとする動機]、
「権力動機」[人に影響力を行使してコントロールしようとする動機]

である。

 相手を駆り立てている動機が業績なのか、人間関係なのか、権力なのかを知り、その動機に訴えかければ説得しやすくなる。動機を知るための方法の1つに、「動機づけ面接法」といって、相手に自分の言葉で動機を語ってもらうものがある(注4)。

 影響力を別の側面からとらえると、こんなふうにも考えられる。

 EQ(編集部注/Emotional Intelligenceの略。自分の感情を知的に活用する能力、すなわち感情的知性)の究極の目的は、自分だけでなく、周りの人たちもオプティマルゾーン(編集部注/それぞれの人にとって重要な何らかの基準で、生産的な「よい日」を過ごした、と満足できる状態)に入れ、そこにとどめることにある。つまり、他者の最善の利益のために自分の能力を使うということだ――これがおそらく最高のかたちの影響力である。たとえば上司が部下に、キャリアアップに役立つスキルが身につくような課題を与えることも、この好例だ。

 これとはまったく異なる、自分の目的を達成するために行使する、利己的な影響力もある。だが利己的な目的のために影響力を行使すれば、因果応報を招くことが多い。操られた人はあなたへの信頼を失い、あなたと距離を置こうとし、バーンアウトすることさえある。

 よりよい影響力を行使するには、こうしたマイナス面を認識した上で、他者の幸福を真摯に考えなくてはならない(注5)。また、影響力は強固な人間関係の上になり立っているから、「自分はいつも約束や責任を果たし、信頼を築いているだろうか」とわが身を振り返ることも必要だ。人と話す際に、「私たち」という言葉を使うよう心がけるのもいい。たとえば、「選択肢を考えましょう」の代わりに、「私たちはほかにどんな方法を取れるでしょう?」と言うなど。また、人への思いやりや献身を、型にはまった方法ではなく、自分なりに工夫して伝えるように努めよう。