企業イメージに対して悪影響が出ることは避けられなかったが、「たとえ会社上層部の人間でも不正は許さない」という姿勢を内外に示したことが、かえって社員の結束を強めた。

 一方で、相手が経営層だと“日和るリスク”もある。

 現場の担当者や中間管理職の不祥事には厳しく対応するのに、役員クラスの経営幹部になると急に調査が曖昧になり、結局はお咎めなしで終わってしまう――という会社は少なくない。このようなケースが一度でも表面化すると、社員からの信頼は一気に崩壊する。通報窓口に寄せられる案件も激減し、組織に潜む問題が温存される悪循環に陥る。

 結局、どれほど立派な規程や仕組みを作っても、「偉い人は治外法権(お咎めなし)なのか?」という疑問が社員の頭によぎった瞬間に、社員からの信頼は得られなくなる。社外取締役や監査役などの機能を活用し、経営トップであっても処分を断行できる統治体制を整えておくことが健全な企業運営において極めて重要だ。

通報窓口への信頼は
すなわち経営陣への信頼

 つまるところ、先述の三つの要素が欠けている会社では、通報窓口は形だけに終わり、社員からの信頼は得られない。ひるがえって、これらをきちんと満たしている会社では、通報窓口が早期発見・早期対処の大きな武器となる。

 社員が「うちの会社ならきちんと対応してくれる」「リスクを恐れず通報しても守られる」と感じる企業は、コンプライアンスのレベルが高まり、ひいては企業価値の向上にもつながっていく。つまり、通報窓口への信頼とは、会社や経営陣に対する信頼とほぼ比例していると言っても過言ではない。

 絵に描いた餅と思われる向きもあるかもしれないが、経営者は、これら三つの要素を自社の社員全員に対して明確に示し、「通報窓口が真に活用される組織」を作る責任がある。

 経営者こそが率先して、「通報をきっかけに組織が強くなる」というポジティブなメッセージを発信し続けることで、企業全体に問題行動を抑止するための透明性と健全性が生まれ、持続的な成長に寄与していく組織文化が出来上がるのだ。

(プリンシプル・コンサルティング・グループ株式会社 代表取締役 秋山 進、構成/ライター 奥田由意)