
なぜ内部通報制度が
信頼されないのか
企業の不祥事が大きな話題になると、「なぜ内部通報制度が使われなかったのか」という話になる。
内部通報窓口は、組織の透明性と健全性を維持するための中心的な役割を果たす。もし窓口が機能すれば、企業としての自浄作用を強化することにもつながる。実際に、「もっと早い段階で内部から声が上がっていれば、企業全体の被害や社会的信用の失墜を防げたはず」というのは、ほとんどの場合当てはまる。
しかしながら、窓口さえあれば、不祥事を告発する声を必ず拾うことができるかというと、それほど単純な話ではない。見方を変えると、通報窓口が十分に機能するためには、前提として社員が会社や経営陣を十分に信頼していなければならないのである。世間には、内部通報によって逆に通報者が不利益を被ったり、左遷されたりしたという悲しい事例が少なくない。
こんなケースもある。ある社員が、不正競争防止法違反 (営業秘密の侵害) の可能性がある行為が行われていると判断し、まず上司に懸念を伝えた。しかし、聞き入れられなかったため、この件を内部通報窓口に通報した。ところが、その内容が窓口担当者からその上司と人事部に伝わり、以後3回にわたって不合理な配置転換が行われた、といったものだ。
このような話を聞いても、「自分の会社ではそんな理不尽なことは起こらない」と社員が確信できなければ、リスクに関する重要な通報は会社には届かない。では、どうすれば通報窓口が信頼されるのだろうか。
私は少なくとも、次の三つの要素が必須だと考えている。