例えば、通報窓口に寄せられた内容を調べるために、特定拠点に本社スタッフが多数乗り込む。この場合、表向きに何らかの理由が示されるとしても、「誰かが内部告発したに違いない」といううわさが広まり、通報者への嫌がらせや報復が起こる可能性が高まる。こうした事態が一度でも起こると、「通報しても結局、自分がリスクを負うだけだ」という認識が社員に広がり、窓口への信頼は大きく毀損(きそん)する。

 そのような事態を防ぐために、例えば、監査部門やコンプライアンス部門が定期的に全国の拠点や海外拠点を巡回し、業務手続きや会計処理をチェックすることを常態化しておかなくてはならない。日常的に一定の調査や監査活動が行われていれば、万一どこかの拠点に追加的な調査を行う必要が出ても、「いつもの監査の延長だろう」と受け止められやすい。

 また、通報内容が特定の技術分野や法律分野に関わる場合は、第三者機関や外部専門家と連携して調査を行う仕組みを整えておく。こうすることで、客観性と専門性を確保でき、社員も「公正に調べてもらえる」という安心感を抱きやすくなる。

 そして、調査プロセスの透明性の確保に尽力することも重要だ。

 調査をする側のプロセスや判断根拠を可能な範囲でオープンにすることで、“闇から闇へ葬られる”ことへの不安を軽減する。特に、必要と認められ、かつ許諾が得られた場合には、調査結果をまとめたレポートを社外取締役やコンプライアンス委員会に提出し、概要を社内共有するなど、一定の情報開示を行うことにも取り組みたい。

3.処罰を公平にやりぬく力

 そして、最も重要なのが「経営幹部(社長を含む)の不正が明らかになった場合、腹をくくって処罰できるか」という問題である。これは企業統治の根幹にかかわる姿勢と覚悟が問われる場面だ。

 サービス業のC社では、役員の社員に対するセクシャルハラスメント問題が内部告発によって発覚した。予備調査で執行役員の行為が十分にハラスメントに該当する可能性が高いことが判明した結果、社外取締役を含めた特別委員会が設けられ、最終的にはその場にいた役員を含む幹部数名に対して懲戒解雇や人事的な処分が行われた。