問題は、この異次元と呼ばれる、ある意味禁じ手的な政策を、当初の段取り通り、2年間限定の短期集中的なものとして使っていれば良かったのですが、これを延々と10年続けてしまったことでしょう。その結果、国家財政と日銀財務が悪化しました。国債と借入金、政府短期証券を合計したいわゆる「国の借金」は2023年12月末時点で1286兆円にも膨れ上がり、国債格付けは先進国で最下位の24位に転落しています。日銀はGDPを超える額の国債(2024年6月で588兆円)を背負わされ、金利上昇(国債価格下落)による債務超過の可能性も取り沙汰されています。

 日銀財務の悪化、財政規律の麻痺、銀行の体力低下など、マクロ的な危機にどう対処するか。危機管理が必要なのは安全保障だけではないでしょう。日本にはNSC(国家安全保障会議)はできましたが、NEC(国家経済会議)はいまだにありません。経済財政諮問会議から一歩進んだ組織を常設して、いわゆる経済安全保障に加えてマクロ経済運営について危機に備えた体制を作っておくべきだと思います。

日本経済の病を治療するには
「地方創生」が不可欠

 アベノミクスのもとでは、一貫して円安を誘導してきました。企業収益増の背景として円安があり、輸出製造業にとっては大きな追い風となりました。国内人件費を相対的にコストダウンする効果もありました。

 ただし、円ベースで伸びていても、各国比較でドル換算すると縮んでしまう。実はアベノミクス前の名目GDP(2012年=6.27兆ドル)と、安倍総理退陣時のそれ(2020年=5.06兆ドル いずれもIMF統計)を比較すると、何とドルベースでは2割強縮んでしまっています。ケインズは「社会の存続基盤を転覆する上で、通貨を堕落させること以上に巧妙で確実な方法はない」と述べたそうですが、通貨も過度な誘導に頼らず、実質経済に見合った水準を目指すべきではないでしょうか。

 ゼロ金利を長く続けることにも当然ながら弊害が出てきます。「異次元の金融緩和」によって、もともと抱えている病気が治るわけではないのです。カンフル剤で時間稼ぎをしながら、アベノミクスの3本目の矢であった成長戦略につながる構造改革を大々的に実施して、生産性の向上を図ることこそが、日本経済の病に対する治療法だったのではないでしょうか。金利のつかないお金が大量に市場に出回ったことで、企業が金利負担という資本主義における付加価値創造能力を失い、安きに流れた面があったのではないでしょうか。