「気の遠くなる作業だった…」明太子・やまやの「AIたらこ選別機」開発秘話が凄すぎた!写真はイメージです Photo:PIXTA

AI(人工知能)が人間の知能を超える転換点を意味する「シンギュラリティ(技術的特異点)」が、間近に迫っているといわれる昨今、AI技術を業務に取り入れる企業も増えつつある。そんななか、創業50年を迎えた辛子明太子メーカー・やまやコミュニケーションズは、業界初のAI技術を活用した「AIたらこ選別機」を2021年に導入し、150%以上の生産性アップを実現した。しかし、その道のりは決して平坦ではなかったという。(清談社 真島加代)

辛子明太子メーカーが導入した
AIたらこ選別機とは

 人間の仕事を“奪う”というネガティブな文脈で語られることもあるAI(人工知能)技術。そんななか、今ほどAI技術が事業に取り入れられていなかった2021年に、人間からAIに“仕事を引き継いだ”企業が存在する。

「当社の工場では、辛子明太子に加工する前段階の『たらこ』の品質を判定する業務を『画像識別AI』が担っています。コンベアを流れるたらこの色や形、薄皮の破れをAIがチェックして、特上からD級などのグレードに仕分けてくれるんです」

 そう話すのは、辛子明太子をはじめとした食品の加工・販売を行うやまやコミュニケーションズ・プラント部原料処理エリアの矢山健氏だ。

「AIたらこ選別機を導入するまでは、約20人のスタッフたちがたらこを目で見て、手で触り、グレードを仕分けていました。スケトウダラの卵が原材料のたらこは、色も形もバラバラで、判別には熟練の技術が必要です。そのため、個人差もありますが、一人前のスタッフを育てるまでに3~5年ほどの期間を要していました」

一般贈答用に仕分けられるA級のたらこ。赤い筋が見える一般贈答用に仕分けられるA級のたらこ。赤い筋が見える
贈答用のなかでもっともグレードが高い特上たらこ。筋がなく、色艶もいい贈答用のなかでもっともグレードが高い特上たらこ。筋がなく、色艶もいい

 たらこのグレード判定は辛子明太子製造のスタートラインであり、全工程の約25%を占める重要な作業。それをAIに引き継いだ背景には、同社が抱えていた課題が深く関わっている。

 プラント部原料処理エリア・マネージャーの中野光氏は、その課題について次のように語る。

「課題のひとつは、スタッフの技術力の差です。熟練工は高い精度を保ちながら、数秒間でたらこのグレードを分けられますが、経験の浅いスタッフの仕分けには倍以上の時間がかかり、精度にもばらつきが生じていました。もうひとつは、人手不足の深刻化。創業時から業務を支えてきたベテランスタッフの退職が続き、これまでと同じ製造方法では立ち行かなくなるリスクがありました」