また、同社では外国人技能実習生の受け入れも進めていたため、言語の壁から技術継承の難しさを感じていたという。加速する人手不足や技術の継承は、やまやに限らず、地方に拠点を置く多くの製造事業者が直面している問題でもある。
40万枚ものたらこの画像を
AIモデルに学習させる地道な作業
同社で働き手不足を解消する部署として、デジタル戦略室が立ち上がったのは2019年。当時はAIの認知度や技術力も低かったため、ロボットなどのテクノロジーを駆使した課題解決を目指していたという。
「当然ながら当社にはノウハウがないので、さまざまなIT企業にヒアリングを行いましたが、なかなか実現には至らず……。そんななか、2010年代に入ると『画像認識AI技術』に注目が集まり、この技術ならばたらこの判別もできるかもしれないと考え、協力してくれる企業探しに奔走しました」(中野氏)
その後、地元のIT企業を通して画像認識AI技術に長けた大手ITベンダー・日本IBMと出会い、2018年に共同開発プロジェクトがスタートした。
しかし、この世に存在しない「AIたらこ選別機」の実用化は、一筋縄ではいかなかったという。
「IBMが開発したAIモデルに、たらこのグレードを学習させるのが我々の仕事。まずは、たらこの写真を撮り、その画像に対して『色が良い』『形が悪い』『皮が切れている』といった情報と、該当するグレードを入力していきました。熟練工の選別技術は個人の経験や勘に基づいており、言語化していなかったので、AIモデルに学ばせるのはとても大変でしたね」(矢山氏)
たらこ画像の仕分けは、デジタル戦略室のメンバー2人で行われた。1年半の学習期間でAIモデルに学習させた画像の枚数は40万枚超。「気の遠くなる作業だった」と両氏は振り返る。
「AIモデルへの学習が終わっても、すぐに通常の製造ラインに取り組めるわけではありません。フルオーダーメイドで作った機械なので、何もかもが手探り状態。はじめに機械の清掃の手順書を作り、機械操作に関しても手順書を作成しました。スタッフを教育しつつ、不具合が起きれば、すぐに対応する必要がありました。もともと水産物や食品用に作られた機械ではないので、衛生面の管理にも悩まされましたね」(矢山氏)
スケトウダラの卵を塩蔵液に漬け込んで作られた「たらこ」を扱う工場内は塩分濃度が高く、金属が腐蝕しやすい環境にある。そのため、選別機の稼働中に錆びたチェーンが切れてコンベアが停止するアクシデントが続出したという。