デザインをブラックボックス化しないための二つの会議
勝沼 ソニーグループには現在のところCDO(チーフ・デザイン・オフィサー)のポジションはありませんが、石井さんがデザインとブランド部門のトップとして事実上のCDOの役割を担われています。その役割を全うできている理由はどのあたりにあると思われますか。
石井 自分では全うできているかよく分かりません。ただ、自分のキャリアを考えると、デザイン系ではなく文系大学に進学しようと思っていた時期もありましたし、アニメやSFなどが好きで、映画監督になりたいと思っていたこともありました。その点で、最初から「デザイナーになりたい」と思ってキャリアを積み重ねてきた人と少し異なります。最終的にはプロダクトデザイナーとしてキャリアを形成していますが、プロダクト一辺倒ではなく、幅広い意味のクリエイションに興味を持っていたことがうまく作用しているかもしれませんね。
勝沼 なるほど。根っからのプロダクトデザイナー志向ではないので、経営層をはじめ、デザイン畑以外の人にも通じる言葉で説明できているということなのでしょうね。
石井 プロダクトデザイナーは、製品の色や形だけでなく、「どうやったら消費者の心をつかめるか」とか、「どうやったら店の目立つ所に置いてもらえるか」といった、ビジネスを含めた総合的な見方が必要とされます。最近はグラフィックデザイナーがUXのデザインをやったり、UXのデザイナーがコミュニケーションのデザインをやったりするなど、クロスアサインメントが進んでいます。そういうことを通して、デザイナーが狭い領域に閉じこもることなく、多元的な視点でクリエイションに取り組むべきだと思います。
勝沼 デザイナーが幅広い視野を得るのと同時に、それを組織としても共有することが重要です。
石井 デザインの決定過程を部門全体にオープンにする仕組みとして、「デザイン会議」と「プロジェクト会議」というものがあります。そのようなコミュニケーションの場があることによって、デザイン活動がブラックボックスにならないし、デザインに対する評価の基準も明確になります。これはとても大切な取り組みなので、今後もしっかり継承してく必要があると考えています。
勝沼 デザインについて説明できること。そして、それによって社内の納得感を醸成できること。そのための仕組み作りが、デザイン部門のトップには求められているといえるかもしれませんね。最後に、今後注力していきたい点についてお聞かせいただけますか。
石井 コーポレートブランディングの発信力強化に力を入れていきたいですね。デザインの力でトップのメッセージをより洗練させて、その意を捉えたさまざまなアセットに展開することで、ブレのないコーポレートコミュニケーションを実現する。そこにはまだまだ工夫の余地があると思っています。