ソニーグループの10年後にありたい姿
なぜデザイン組織がその作業に携わったのか

多摩美術大学卒業。1992年ソニー入社。ハンディカム、ウォークマン® 、AIBOなどのプロダクトデザインを担当。2度の英国赴任を経て、AIロボティクス、モビリティ、ドローンなどの新規領域や、R&D、コーポレートブランディング等幅広い領域のID/UIUX/CDを含む統合的なクリエイティブディレクションを担う。2021年よりセンター長に就任。2016/2021 iF Award 審査員(ドイツ)、2019/2022 DFA Award審査員(香港)、2022-2023 ミラノ工科大学客員教授。
Photo by YUMIKO ASAKURA
勝沼 さまざまな企業への取材を進めていくと、全社的なクリエイティブ組織の認知向上には、経営陣との認識合わせが欠かせないことが分かります。ソニーではどのように行われましたか。
石井 これまでに培ってきた実績と信頼がベースにあることが前提ですが、クリエイティブセンターの自発的な情報発信が経営陣の目に留まり、組織の方向性がその重要性とともに認識されていくというプロセスがあります。例えば、クリエイティブセンターは、社会情勢や人々の意識のトレンドなどを独自の視点でまとめたレポートを社員向けに発行しています。24年末には、それを社外向けに出版もしています。そういった活動によって経営陣の理解を得ることが、全社的な認知向上の要因になっていると思います。
勝沼 ソニーグループは、10年後にありたい姿を描いた「Creative Entertainment Vision」を24年5月に発表しました。あのビジョンも、クリエイティブセンターのメンバーも参加して作られたものなのですか。
石井 そうです。きっかけの一つは、クリエイティブセンター独自の活動で、SF作家と協業したいわゆるSFプロトタイピングによって、2050年の世界を描くという取り組みでした。そのプロジェクトの一環で、2050年の東京を描く「ONE DAY, 2050/Sci-Fi Prototyping」という展示会を21年に銀座のソニーパークで開催し、社長をはじめとするトップマネジメント陣を招待しました。それにヒントを得た社長から、「ソニーグループの未来を一緒に考えてほしい」という依頼を受け自社のビジョン作りにつながっていきました。
勝沼 クリエイティブセンターが企業活動に関わるさまざまなデザインを担い始めている様子が伝わってきます。
石井 もちろん外部のプロの力をお借りする場面はありますが、さまざまなアセット制作に関するイニシアチブを取れる環境が内部に整ってきています。インハウスのデザインチームは会社の風土や文化といった、言葉にしにくい部分まで理解しているので、それを積極的に活用しないのは無駄に等しい。スピードの点でも、クオリティーの点でも、クリエイションを内製化することのメリットは大きいと思います。