勝’s Insight:クリエイティブセンターの提言力、デザインを経営者に説明する言葉はどうすれば生まれるのか

ソニーはエンタテイメントへ、会社の10年後を描く作業になぜデザイナーがアサインされたのか――ソニーグループ クリエイティブセンター センター長・石井大輔氏インタビューPhoto by YUMIKO ASAKURA

「デザイナーが提言する文化」――。ソニーの強さはそこにあると改めて感じさせられたインタビューだった。

 デザイナーには、自分が生み出したデザインの「理由」を説明する責任がある。これは私自身の意見であるだけでなく、「デザイン経営」について考え、実践されている多くの人たちに共通する見解でもある。なぜこういう色や形になったのか。なぜこのような表現でなければならないのか。なぜこのようなビジョンが必要なのか――。企業活動にデザインの力を生かそうとする場合、それらのことを説明し、理解と納得を醸成する責任がデザイナーにはある。

 その説明の相手は、具体的には経営層や事業部門、あるいは人事などの間接部門の人たちである。デザインのアウトプットだけでなく、それがなぜこうでなければいけないのかという根拠を示すことで、その人たちの心を動かす力。それはすなわち、デザイナーの「提言力」であるといえるだろう。

 では、そのような提言力はどうすれば培われるのだろうか。石井さんの話から、組織としての「仕組み」と個人の「姿勢」という二つの側面からアプローチする必要があると考えた。前者では「デザイン会議」や「プロジェクト会議」の中で、デザインを巡るディスカッションを何度となく繰り返すことによって、デザイナーは徹底的に鍛えられるのだと思う。感覚のみに依拠するのではなく、「言葉」をもってデザインの本質を共有する作業。その積み重ねが強い提言力につながっているのだろう。

 石井さん個人として注目すべきは、幅広いものの見方と専門的スキルの両面を追求する姿勢である。石井さんはインタビューで、自身がプロダクトデザイナーでありながら、その専門性に一定の距離感を持っていたこと、プロダクトデザインのプロとして、「ビジネスを含めた総合的な見方」を突き詰めていったことについて語っている。実はこの二つは別々のことではない。プロダクトデザインという専門領域を深めたことが、結果として、デザインの追求だけでなく、ビジネスへの視野や感性を広げることにつながっているということだ。

「あれもこれもできる」ことが、「幅広いものの見方」に通じるわけではない。自分のスペシャリティーをしっかり磨くことでデザイナーとしての基盤をつくり、そこから多様な領域に視野を広げていくのが理想的であり、石井さんはそれを実践されている。

「深さ」と「広さ」に裏打ちされた提言力。それが、企業のデザイントップ(CDO)に求められる一つの要件といえそうな気がしている。

(第9回に続く)