すき家で起きたような事案では、それでは済まなかったかもしれませんが、少なくとも焼肉きんぐでは事態は違う展開になっていたのではないでしょうか。責任者もいない、本社にもつながらないという焼肉きんぐの状況でも現場に権限があればできたことはたくさんあるはずです。

 近くの席の顧客は移動させるとか、嘔吐の飛沫が飛ぶレーンは休止して従業員が手で運ぶとか、急性アルコール中毒かもしれない顧客のために救急車を呼ぶとか、ノロウイルスのリスクから営業を休止するとか、手立ての選択肢はたくさんあります。しかし権限がなかったのです。

 世界でも最上質のサービスを提供する企業としてリッツカールトンが有名です。リッツがなぜ上質なのかについてはいろいろな分析がなされていますが、この記事でもひとつ紹介すると、従業員一人ひとりに1000ドル(約15万円)の決裁権限が与えられていることが知られています。

 サービス業を運営していると、どうしてもお客様がガッカリするようなトラブルが起きてしまうことはあります。そのガッカリを取り返すために従業員教育がしっかりしているだけではなく、権限も与えられているのがリッツの特徴です。

 では、なぜすき家も焼肉きんぐも現場従業員に権限を与えないのでしょうか。ここが一番重要な視点です。

 それは3番目の視点として、上場企業の運営が株主責任重視にシフトしてきているからでしょう。少しかみ砕いた表現をすると、企業のコンプライアンスの仕組みとして、株主への責任を果たすうえでは従業員を性悪説で管理しなければならないのです。

 アルバイトの従業員が顧客に対して何かをやらかしてしまったときに、勝手にお詫びのしるしに食事をサービスしたりすることができないように管理する企業が多い理由は、そのような権限を与えると勝手に友人に食事をふるまうバイトが出現するからだと考えてみると実情が理解できるかもしれません。