従業員による不正が起きない仕組みをつくる。何かトラブルが起きた場合のマニュアルを事前に整備する。正社員は働き方改革のため、夜になったら本社から誰もいなくなるように運営する。そういったことができていないと株主に対する責任が負えないと企業は考えます。

 一方で私が30年前に訪れたラーメン店のように店員の大半がベテラン従業員で構成されるような職場は、よほどの老舗の高級店でない限り望むことが難しい雇用環境になっています。現代は生産性重視の時代なのです。

 ここは細部について言えば、この問題を乗り越えるための対応は企業によってさまざまで、非正規雇用をなくし、すべて正社員として採用することで、教育を充実させて現場力を高める企業もあります。サービスレベルが高い外国人の非正規従業員を育てるのが得意な企業もあります。オーナーによる抜き打ち検査で店長をクビにする企業もあるでしょう。

 その中でやれる企業努力を精一杯、どこのチェーン店もやってきて、それで大概の顧客サービスについては概ね満足を得られている。その前提で、「もし本部が想定していないような不測の事態が発生したら?」というのが、この記事で問題提起しようとしている「事件」です。

 それでも多くの「事件」は現場の人間力で未然に防いだり、乗り越えたりできるでしょう。でも確率の問題で、お客様が正当な理由でお怒りなのに、そのままお帰りいただく今回紹介した事案のようなケースもでてきてしまう。仕組みがそうなっているので「事件」はいずれどこかで起きるのです。それでSNSに投稿されて、問題がさらに大きくなる。

 そうならない仕組みを作ることはおそらく簡単ではないでしょう。ひょっとすると近い将来には現場でどうしたらいいかわからない事件が起きた際には、AIに質問してその通りに対応するように決める企業が出てくるかもしれません。それなら顧客と株主、どちらも納得するかもしれませんから。

 とはいえ、それはまだ夢のような話です。いまのところは、「信じられないような異物が混入しませんように」「信じられないような経験をお客様がしませんように」と毎日、経営者は祈りながらチェーンを運営する日々が今後も続くのではないでしょうか。