「わかりました。こんなアニメぐらい売ったりますわ。ただし、これは編成に“貸し”ですからね!」

 編成と営業の力関係は局面に応じて変化する。たとえば、視聴率が高い番組については編成の意向(*注釈は記事末に列記、以下同)が強くなるし、低視聴率番組だと編成は、スポンサーを探してくる営業に意見しづらい。

 今回のように、編成としてはやりたいが、スポンサーに売りにくい番組の場合、編成は営業にお願いして売ってもらう。つまり、編成からすると営業に「借り」を作る(*)ことになる。

 テレビ上方は恒常的に視聴率が低かったこともあり、編成よりも営業の力が強かったといえるが、このときばかりは西局長が押し切った。局長も開局まもない自社でアニメを制作することに大きな意義を感じていたのだ。

 なんとか「パンダ絵本館」の放送がスタートしたのだが、また困りごとが起こる。放送を重ねるごとに、アニメ制作が遅れだしたのだ。

 通常、制作番組は最低1週間前に納品される。テレビ局側でも内容のチェックなどが必要だからだ。

 ところが、回を追うごとに、1週間前のはずが、6日前になり、5日前、4日前……と素材の納品が遅れてきた。当初は16ミリフィルムでの納品だったのが、これだと編集してフィルムに焼き付ける時間がもったいないということで、途中から1インチVTRでの納品に変更された。それほど時間に余裕がなくなってきたのだ。

 プロデューサーとして制作の内幕をのぞいて初めてわかったことだが、アニメはとにかく手間がかかる。脚本を作り、絵コンテと原画を作る。その後、キーポーズ作成、タイムシートで各フレームの動きの指示。動画の作成工程では原画と原画のあいだを埋める「中割り」を行ない、キャラクターや背景が滑らかに動くようにする。同時に背景美術を描き、色指定、彩色も必要だ。そして、撮影、編集、アフレコ(*)(声優収録)、効果音、音楽制作、さらに試写・修正……。当時は今のようにデジタルではなく、すべて手作業だったからなおさらだ。